《四話》イデアとサイコ
彼らはそこで、王による説明を受けていた。
「サイコの話だね。そう、あれは40年前……正確には41年前だな。突然サイコと名乗る人物がこの世界――イデアに現れた。
そして、彼は『違う世界から来た。』と言った。だから兵士たちは君を疑ったんだ……
彼はとてつもない力の持ち主だった。武王Lv.5、守護王Lv.5、魔術王Lv.5、回復王Lv.5……聞くだけで恐ろしいだろう?」
王は苦笑いしながら彼らに尋ねる。
「えっと、何なんですか。その何とか王っていうのは。」
ユーリが聞き返す。
「ああ、そうか。君たちは何も知らないんだったね。それでは基本的な説明からした方が良いのかな。
今言ったものは『称号』と呼ばれる、その人の能力を指すものだ。
これは『手帳』に書いてあることなんだが、君たちは手帳も持っていないのかな。」
王は服のポケットの中を探すよう促す。イサムらがガサゴソと探すと、小さな手帳を見つけることが出来た。
「うん、それだよ。ええとイサム君は……なんだって?勇者Lv.1だと?」
王は驚きの声をあげる。
「これは凄いぞ!ええと、残りの三人は、
モリー君が守護者Lv.1
ユーリ君が魔女Lv.1
アツシ君が癒術師Lv.1か!
良い称号だ。素晴らしい。君たちなら、もしかしたらサイコに勝てるかもしれないぞ!」
その言葉に四人がきょとんとした顔をする。
「あ、いや……すまない。変なことを言ってしまって。
……説明を続けよう。その『手帳』はこの世界において、最も重要なものの一つと言えるだろう。消耗品から装備品まで、様々なアイテムがその手帳の中に入れられる。
少し、やってみようか。」
王は自らの手帳を取り出し、右手に持った。そして、左手に持っている杖に向かって何やら念じると、するすると杖が手帳に吸い込まれる。
ほら、と王が手帳を見せると、そこには『王の杖』の文字だけが記載されていた。
「便利なものだろう。もう一度念じると……こんな具合に、杖が手帳から出てくる。どれだけの荷物があっても、この魔法の入れ物なら大丈夫だ。
つまり、手帳は自分の身分証明にも、荷物入れにもなる。他にも、君たちの年齢や性別、ステータス――称号とは別の、君たちの強さを表すものだ――といったものも記載してある。まあ、細かいことは後で見てみるといい。」
王が一つ、咳払いをする。
「あと、戦闘場について教えたいのだが、君たちはネロ義賊団を倒したんだ。後々、兵士に実戦形式で教えてもらった方が良いかな。」
王は護衛の兵士に目をやる。彼は軽く頭を下げ、分かりました、との意志を伝える。
「うん。これくらいで良いだろう。習うより慣れろと言うしな。
さてと、サイコの説明に戻ろうか。
彼は二つ災厄をもたらした。一つは彼自身だ。その力で暴虐の限りを尽くしているそうだ。儂らの国『イスファン』には、それほど大きな影響が来ていないが、サイコがいる『アシラ大陸』はまさに地獄絵図らしい。
もう一つは、モンスターの存在だ。これは大きく『イスファン』にも影響を与えている……」
王は苦々しげに吐き捨てた。
「モンスター?サイコと関係があるのですか。」
イサムは尋ねる。
「もちろんだ。彼が来るまでは、イデアにあの忌々しい生き物はいなかった。彼は力を使ってモンスターを生み出し、それを世界中にばらまいた。
イスファンは『ビア島』という島にあるのだが、ビアにも奴らが溢れている。それから国を守るため、城と城下町を壁で囲っているのだが、一歩『ソト』に出れば命の保証は無い。」
王がもう一つ、咳払いをする。
「これがサイコという災厄だ。」
「えっと、それだけですか。」
ユーリが少し遠慮しながら尋ねる。
「すまない。イスファンは彼の影響をあまり受けていないが為に、彼自身の情報はあまり多くないんだ。」
王は目を伏せる。
「いえ、これだけ教えて下されば十分です。ありがとうございます。」
アツシが答える。
「これからもイデアで生きていく事になるかもしれないのだろう。サイコには本当に気をつけてくれよ……」
王は彼らをねぎらう。しかし、何か言いたそうな目をしている。
ほんの少し、沈黙が流れる。互いに本音を隠しているのだ。その空気を壊したのは、彼だった。
「な、なあ王様。さっき、オレたちがサイコに勝てるかもしれないって言ったよな。」
モリーがおずおずと尋ねる。すると、王の目が輝く。
「勿論そうだとも!いや、初対面の君たちに頼むのも何だがな…
き、君たちには力がある。ここに来てすぐネロ義賊団を倒したんだ。それを見込んでだ……さ、サイコをた、倒して欲しい。」
言いづらそうに王は言葉をひねり出す。
それに応えるように、
「みんな、オレはやりたい。何も良い事なんて無かったオレが、この世界でヒーローになれるかもしれないんだ。この王様も良い人だし、世界を救ってみたい。」
モリーは熱く語る。醜いその姿から、本物の情熱を絞り出す。
「僕は、良いと思う。どうせそのつもりでヒロクエを買ったんだ。」
イサムはすぐに同意した。続いて、アツシ、ユーリも賛成する。
「おお、君たち……ありがとう、ありがとう!君たちなら出来るはずなんだ。」
王は涙を流さんばかりの喜びようだ。
「それなら、少しイスファンでゆっくりしていくと良い。後で、兵士に渡させるものがある。儂からの、心ばかりのお礼だ。」
「ありがとうございます。お言葉に甘えさせてもらいます。」
イサムは答える。
「君たちはまさに『勇者』だ。期待しているぞ。」
王は四人それぞれと握手を交わす。冷たく、ゴツゴツとした手だった。
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王の間を出た。背後から、ギギィと扉の閉まる音がする。
「さてと、何から始めようかな。」
イサムがみんなに尋ねる。返ってきたのは、うーん、という煮え切らないものだけだった。
「その前に皆様。私が戦闘についてお話しましょう。」
先程の、護衛の兵士が手帳を片手にやってきた。
読んで下さり、ありがとうございます!
説明回、ということになるのですが、如何せん難しい。
これからもよろしくお願いします!