《三話》お城にて
彼らは城門の前に立っていた。
酒場から城まではかなりの距離があり、キャラクターを動かすのと、実際に歩いてみるのでは大きな差があった。
しかし、近くで見るとその凄さが分かる。
精巧に造られた城門。この国を象徴するだけはある荘厳さだ。
目を上の方にやると、青空を抉り取る城の全体像が見える。細部にまで手が込んでおり、繊細かつ大胆。軽く青がかかった城壁は、宝石のように美しい。
……思わずため息が出る。
「素晴らしい城だよな。俺はこの国で城が一番好きなんだ。」
店長がにこやかに話す。
彼らが我を忘れて城に見入っていると、人がやってきた。
「あんたら何をしてるんだ。おっと……それはネロ義賊団かい?まさかあんたらがやっつけてくれたのか?」
その男が尋ねる。軽鎧を身につけているのを見ると、見回りの兵士らしい。
「ああ、俺じゃないんです。こちらの四人が倒してくれたんです。」
店長が誇らしげに答える。
「ほう!ご協力感謝するよ。それじゃあこっちに来てくれるかな。」
「俺は戻るよ。まだ店仕舞いには早いんでな。あとはよろしく頼んだぞ。」
店長は早歩きに戻って行った。四人は兵士の後に続き、城の隣の詰所へ向かう。小さな建物である。
「おうダンプ。見回りの交代はまだじゃなかったか。」
詰所の中の兵士が、彼らを連れてきた兵士に話しかける。
「聞いてくれよソル。ネロ義賊団をやっつけた一般市民の方を連れてきたんだ。」
「何だって?……変な格好をしてるんだな。あぁいや。気を悪くしないでくれ。ご協力感謝するよ。しかし凄いな……。」
ソルと呼ばれた兵士は、四人に対して不信を含んだ目を向ける。
「ところでこいつらはいつまで気絶してるんだ。……おい起きろ。起きろッ!」
ダンプはペチペチと、盗賊たちの頬を叩く。
「んん……あアッ!?俺ぁ何でこんなんなってんだ!ぐ、ぐぉぉ……」
縄で縛られ、身動きが取れないようだ。モゾモゾと体を動かそうとするが、意味がない。
「お前ら酒場『英雄の邂逅』を襲おうとしただろう。それで、ここの四人がお前らをとっ捕まえたってわけだ。」
ダンプが説明する。
「ったくもう。俺はこいつらを奥に連れていくよ。ソル、この人達にお礼をお願いするよ。」
彼は盗賊に暴言をぶつけながら、詰所の奥に去った。処罰やら何やらがあるのだろう。あまり気にしないでおこう、イサムはそう思った。
「さてさて。もう一度言うが、協力ありがとう。君たちも知っているように、ネロ義賊団はここいらの脅威となる集団だ。恐らく奴らは下っ端だろうが、それでも実力はある。よくやってくれた。」
ソルは事務的な笑顔を四人に向ける。目の奥が笑っていない。彼らの能力を疑っているのではなく、素性に対して不信感を抱いているようだ。
「うん……君たちは妙な――いや、ここら辺にはいない格好をしているが、他所の国の人だろう?今どきそんなのは珍しいが。」
「えっと、僕らは違う世界から来たんです。」
イサムはおずおずと答える。しかし、
「なるほど。違う世界から……なんだと!?貴様らッ、何をしに来たッッ!!」
ソルが席を勢いよく立ち、剣を構える。……間合いだ。
「貴様ら変な動きをするんじゃないぞ!私は容赦はしないッ!」
「ちょっと待ってよ!私たちが何をしたって言うの!」
ユーリが悲鳴のような声をあげる。
「黙れ!貴様らヤツの手先だろう!」
「何をやっているんだソル……おい!何をしてるんだよ!」
ダンプが騒音に耐えかね、奥の扉から現れる。
「ダンプ!こいつらサイコの手先だッ!」
サイコ、という聞き慣れない名前にイサムたちは戸惑う。
「なに!?それじゃあそいつらは異世界から来たのか……」
ダンプも腰の剣に手をやる。どうやらサイコという存在も異世界の住人らしい。
「ちょっと待ってくれよ!俺たちは……」
アツシが両手を上げて、自分の境遇を話す。それに続いて残りの三人も堰を切ったように口々に喋り始める。
「……つまりサイコの手先ではないと。ハッ。何とでも言えるさ。」
ソルは依然疑いの目を向ける。
「だけどソル。本当にサイコと繋がっているんなら、最初に違う世界から来た、なんて言わないんじゃないか。俺は彼らを信じても良いと思うが。」
ダンプは警戒を解いたようだ。
「そもそもサイコってのは何なんだよ。」
アツシがため息混じりに尋ねる。それには安心と苛立ちが含まれていた。
「……ソル、どうする?」
「ああ。取り敢えず王の所へ連れて行こう。俺らが説明するもんじゃないし、こいつらの疑いが晴れた訳じゃないからな。」
彼らはダンプを先頭に、ソルを一番後ろにした列で城内へ入る。
四人の緊張は、彼らが城の豪華な装飾を見ることすら妨げた。
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王の間。その扉の前に来た。
「後は頼みます。俺らは見回りに戻りますんで。」
ソルとダンプは、そこにいた兵士に事情を話す。王の間を護衛しているだけあって、この二人とはオーラというものが全く違う。
「こっちだ。」
兵士は静かに彼らを促し、扉をゆっくりと開く。ギギィ、と古くいかめしい音がし、王が彼らの前に現れる。
スタスタと四人は王の元へ歩いて行き、兵士に言われるがままに跪いた。
「面を上げてくれ……」
王が唸るように言う。イサム達はその通りにした。
その顔には真っ白な髭が蓄えられ、無数の皺の奥から異質なほどに澄んだ青の瞳が覗いている。純白の髪は長く、肩につく程なので、表情が分かりづらい。しかし、その厳格な雰囲気だけは嫌でも分からされる。
ほんの少し、沈黙が流れた。気まずい、嫌な沈黙だった。
だが、
「ほう。君たちがネロ義賊団を倒してくれたんだね。どこから来たかはおいといて、お礼を言わなくてはね。」
白と皺の仮面の下からでも分かるほど、王は顔を綻ばせた。その姿とは違い、フランクな王のようだ。
「あの、えっと、どういたしまして。」
挙動不審になりながらイサムは答える。
「ははは。面白い人たちじゃないか。サイコの手先だなんてそれこそジョークだろう。」
にこやかな目を四人に向ける。一気に緊張が解け、体の強ばりがふっと無くなった。
「それじゃあ儂に、君たちの口で、事情を話してくれないか。」
「あの、はい。僕らは、……」
先程兵士に話したのと同じ要領で説明する。
「……ふぅむ。なるほどなあ。つまり、君たちからしたらここはその、『ゲーム』の世界と言うのだな。なるほどなるほど……」
王は一人言のように呟きながら、頭の中で整理する。
「そして、何も知らずにここへ来たのか。それは困っただろうに、サイコやら何やら分からなかったはずだ。」
「もう、本当にそうなんすよ!」
モリーが安心したのか、突然大きな声で同意する。余程緊張していたのだろう。さっきまでほとんど話していなかったのに。
「ははは。それはすまなかったね……」
「あの、サイコについて説明して頂けませんか。」
アツシがおずおずと尋ねる。
「ああ、それはそうだな。説明しようじゃないか。
どこから言おうか。そう、あれは……」
お読み下さり、ありがとうございます!
ファンタジーの描写というものは難しいですね。完成された構想が無いと出来ないということを痛感しました。次からも頑張っていきます!