表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君は世界を救ったことがあるか?  作者: 加藤 小判
ビア島〜始まりの島〜
6/19

《二話》英雄の邂逅

守岡(もりおか) 優一(ゆういち)は苛立っていた。自分と同じ境遇であろう人間が三人も現れた。しかもその三人は仲良く何か喋っており、自分はのけ者である。


なんだよ。オレだけが異世界転移したんじゃないのかよ。それにあいつら、間違いなくオレの方を向いたはずだ。それなのに話し掛けてくる気配すらない。


ちっ、オレはこっちでも邪魔者扱いかよ。くだらねえな。


彼は壁にもたれかかって三人を睨めつける。口を小さくモゴモゴと動かしながら、何か言っているようだ。しかし、その声は誰にも聞こえない。聞かせる気も無い。


バン!!


突然銃声が響いた。


彼は咄嗟にしゃがみ込む。今までこれほど機敏に動いたことはないだろう。

酒場の入り口に目をやると、数人の男が武器を持って叫んでいる。


息を潜める。それでも、目は奴らから離さない。


すると、奴らは三人に銃を向けた。彼にはどうすることも出来なかった。少しの、助けたい、という勇気は恐怖に押し潰された。


バンと音が鳴った。彼には銃弾が発射されるのが見えた。

……見えたのは確かだ。しかし、その瞬間盗賊たちと三人が消え去った。比喩ではなく、すっと存在がなくなった。


どういうことだ?何が起きたんだ。


「あいつら戦闘場に行っちまった。見たところ戦士でもないらしい。生きては戻れないな……。」


「可哀想に……ネロ義賊団に目をつけられたらお終いさ。」


「そんなことより俺らは逃げるぞ。あいつらには申し訳ないが……」


口々に酒飲みたちが喋る。彼らはこの現象について何か知っているらしい。守岡は勇気を振り絞って尋ねてみた。


「な、なあ。一体彼らはどうなったんだ?」


「どうなったも何も。戦闘場に行ってしまったんだよ。」


聞き慣れない言葉に疑問符が浮かぶ。


「戦闘場?」


「知らないのか?……まあいいさ。箱みたいな所に閉じ込められて、お互いに戦うんだ。ネロ義賊団とあいつらは今戦ってるんだろう。」


なるほど。エンカウント、そして戦闘か。まさにゲームの世界だな。

守岡は理解した。


理解するとすぐに、自分が彼らを助けられるかもしれないことに気がついた。

……ゲームにおける最初の戦闘。これはチュートリアルだ。負けるはずが無い。しかし、もしオレが主人公の一人であれば三人だけでは勝てないだろう。助けにいこう。


守岡は近くに立てかけてあった木材を手に取った。よし、と小さな声で気合いを入れる。が、意気込んだところでどうやって戦闘場に行くのか。そのことは彼にとって盲点だった。


木材を握りしめ、彼は目をつぶった。


結局オレは何にも出来ないじゃないか。クソっ。馬鹿みたいだな……


自己嫌悪に陥る。殺意にも似たものを、盗賊と自分自身に向ける。

……クソっ!虚しく木材を振るが、それは何もない空間を切る。


本当に嫌になる。視界がぐるぐると廻るようだ。


……ん!?本当に視界が歪んでるぞ。まずい。何だこれは。空間がねじれ、絡まり、溶けていく。


チャラララチャラララ……


何の音だ?まったく何なんだよ……




気がつくと眼前には、先程の三人と盗賊たちが戦う姿があった。

こちらには気づいていない。


すると盗賊がドン、と少女を突き飛ばした。彼女は倒れ、盗賊は刃を振りかざす。


こちらには気づいていないッ!守岡はすぐさま盗賊に駆け寄り……


「であッ!」

手に持っていた木材で、その頭を思い切り殴った。

ゴン、と鈍い音と共に盗賊が倒れる。すると、その体が光に包まれ、消えた。


その演出は守岡にとって見慣れたものだった。今までやってきたゲームで、敵を倒した時はこのようなエフェクトがかかる。


彼は倒れていた少女に手を差し伸べる。返してきた手をグッと掴み、引き上げる。


久しぶりに女性の手に触れた守岡は、しばらく呆然としていた。

その意識は、ガツン、という嫌な音で取り戻された。隣で中年の男が敵を倒したようだ。


パパパパーン!!!


勝利のファンファーレが鳴った。


再び四人の視界が歪み、空間がぐるぐると廻る。これで通常に戻れるようだ。



―――――――――――――――――――――――



気がつくと、四人は元の酒場に戻っていた。軽かった体が嘘のように重い。あれほど自由に動けるのは、戦闘場だけの話らしい。


イサムは周りを見渡す。しかし誰もいない。


「どうして誰もいないんだ?」

彼は言う。


「逃げたらしい。みんな、あんたらが戦っている間に逃げるって

言ってたからさ。」

守岡が答える。


「そうなんだ。……ところで、さっきはありがとうね。名前は何て言うの?」

ユーリが尋ねる。


「オレの名前はそうだな。モリーとでも呼んでくれ。」

決まった……守岡――モリーはそう思った。


こいつ、この世界に酔っている……イサムはもうダメだと思った。


「いやはや、モリーには感謝するよ。ユーリを助けてくれたんだろう。」

アツシは『モリー』と『ユーリ』という単語を、少し茶化して言う。


「それほどでもないさ。」

モリーはまんざらでもないみたいだ。


「もうユーリでいいよ……さてと。皆あっちの世界から来たんだよね。モリーもそうでしょう?これからどうするの。」


「どうしような。僕はとりあえず――」


「あ、あんたら!ネロ義賊団を倒したのか!?」

酒場の店長が店の奥から出てきて、彼らに尋ねる。しかし彼らを見てはおらず、床を驚いたように見つめている。そこにはさっきの盗賊たちが気絶して倒れていた。


「まあそうだけど。」

イサムが答える。


「何てこった。そりゃあ凄いことだ。あんたら、こいつらを城に連れていくのを手伝ってくれないか?」

店長が盗賊たちを縄で縛りながら言う。手際が良いことだ。


「俺はいいぜ。今からすることも無いしな。皆も良いだろう?」


「問題ないよ。やっぱりゲームと言えば城だよね!」

アツシとユーリは賛成する。


「オレも行きたい。……誰が主人公なのかはっきりしなきゃな。」

モリーは後半の部分を呟くように言う。


「僕も行くよ。せっかくだしね。」

全員が城に行くことに同意した。酒場の店長を先頭に、店を出ようとする。


扉から眩しい程の光が店内に入り込む。その先では、活気に満ちた人の群れと、素朴ながらも美しい家や店などの街並みが彼らを出迎える。


一歩踏み出す。見上げればそこには、底抜けに青いキャンバスに、白い雲がぽつぽつと描かれている。


彼らはゲームの世界に来たことを再び実感した。理想(イデア)。そんな言葉がぴったりの世界だった。


「ほら、こっちだよ。」

縄で縛り上げられた盗賊を引きずりながら、酒場の店長が彼らを促す。


足取り軽く、一行は城へ向かう。

お読み下さり、ありがとうございます!

邂逅って漢字、難しいですよね。

これからもよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ