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《序の弐》ニート、異世界へ

彼は怒っていた。それはもう激しく、気が動転するほどだった。


…なんてことはない。オンラインゲームで対戦相手に負けたのだ。それも格下の相手に。


「クソッッ!やってられるかよこんなクソゲー!今の攻撃絶対おかしいって!」


この怒りをどこにぶつければいいのだろう。これ以上壁に穴を開けるとそろそろ母親に怒られる。


だから、とりあえず暴言を吐いてみる。


男の名は守岡(もりおか) 優一(ゆういち)。28歳ニートだ。肌は荒れ、だらしなく太っているその姿は人に見せられるものではない。彼の眼は、人格を表すかのように淀んでいる。

小学校中学校時代、真面目だ温厚だと大人からは持て囃され、何かを勘違いしたまま高校を卒業し、金を出せば入れる大学を中退した。


彼は苛立ちながらゲームの画面を見つめる。『敗北』と書かれた画面を見つめる。


そうしていると、途端に虚しくなる。

自分は一体何をしているんだろう。そんな気分になる。


彼の学生時代は、決して良いものではなかった。友達はほとんど出来ず、孤独でいると大人から温厚だと言われた。


部活に入る訳でもなく、勉強を頑張った訳でもない。ただ、タラタラとバイトをこなし、すぐに無くなってしまうような金を稼いだ。それらは勿論ゲームやアニメに費やした。


何も成さなかった学生時代。高校、大学受験も、チャレンジすることなく逃げてしまった。鶏口牛後、などという都合の良い言葉で考えることを放棄した。


結局彼は鶏口にも、牛後にもなれなかった。負け組の中の最底辺。名前も聞いたことのない大学で、誰よりも不真面目だった。


これじゃあダメだと思い立ち、二十歳の時に大学を中退した。

環境を変えたかった。環境が変われば、自動的に自分も何か変わると思っていた。


ゼロからのスタート。二十歳からのリスタート。彼はそんな風に考えていた。




……あれから八年間、ついにオレは何もしてこなかった。

認めたくない。オレはゲームを頑張ってきた。仕事もせずにゲームをしてきた。この頑張りはそこらの人間には出来ないだろう。


分かっているさ。悪いのはオレだ。いつだってオレが悪かった。でも認めたくない。誰かのせいにしなければ心が壊れてしまう。課題に立ち向かうことなんて出来やしない。逃げ続けなければ気が狂いそうだ。


オレはそうやって生きてきた。八年間、いやもっと昔からだな。オレはこどもの頃から、嫌な事に目を向けてこなかったんだ。今さら変えられるかよ。




はぁ…変なことを考えてしまったな。気晴らしに動画でも見るか。


彼はやっていたゲームの電源を荒々しく切り、パソコンを開く。そして動画サイトを開き、お気に入りの動画を見る。


『君は世界を救ったことがあるか?』


広告だ。


彼は酷く気分が害された。最も嫌いなものの一つが広告だ。


オレは嫌いなものが多いな。


「ンだよクソ広告!早く動画が見たいんだよオレは!」


先ほどゲームで負けたこともあり、彼の怒りは恐ろしいまでに膨れ上がっていた。

だがその怒りをぶつける術が無い。


「あーもうダメだ。気分悪いし寝よう。」

まだ昼の二時である。しかし彼には関係ない。


彼は横たわった。瞼を閉じ、眠ろうとする。


……が、寝付けない。押し潰されそうな不安に襲われる。


眠れない。眠れない。希望のない未来を想像してしまう。絶望的な過去を後悔してしまう。


寝る前はいつもこうだ。過去の自分が、今の自分を殺しにやって来る。


オレは、いつまでもガキのままだな。いい歳して大人になりきれない。見た目は大人、心は子供か。くだらない。


どんどん気分が落ち込んでいく。暗闇の中に自分が溶け込んでいく……


……さっきの広告が気になるな。

彼はふとそう思った。


『ヒロクエ』か。オレが人生で初めてやったゲームシリーズだな。

新作が出たんなら、久しぶりにやってみるかな。


そう思い、近くのゲームショップへ行く。もちろん買う金は母親の財布からくすねた。

一万円。決して安い値段ではないが、彼は何の迷いも無くレジへ向かう。当たり前だ。彼の金ではないのだから。


少し早歩きに家へ帰り、すぐさまそのゲームをセットする。


……おかしい。全く起動しないじゃないか。


何回やっても上手くいかない。彼は再度怒りが燃え上がってきた。


チッ。不良品じゃねぇか!後で店に文句言ってやる。

イライラすると腹が減るんだよ。冷蔵庫の中に何かあったかな。


いつものようにキッチンに向かおうと自室の扉を開け、廊下に出た。



いや、そこは廊下ではなかった。



「いらっしゃあい!」

不自然に大きな声で出迎えられ、彼は困惑する。


そこは酒場だった。品の無い人間が、がばがばと酒をのんでいる。一人、自分と同じように戸惑っている中年の男がいるが、そんなことはどうでも良い。


いったい何が起きているんだ?ここはどこなんだ…?

自分の部屋に戻ろうと振り返るが、そこも酒場の一部になっていた。


恐ろしさがこみ上げてきた。


しかし不思議と見覚えのある雰囲気だった。まるで今さっき見たような…


まさか。



「ここは『ヒロクエ』の世界なのか?」

お読み頂きありがとうございます!

不定期更新ですが、頑張っていきたいと思います!

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