七
何の予定もない土曜日、泉は横須賀中央駅そばのファミリーレストランでナガノと待ち合わせした。電話をもらってから五日後のことだった。
おぼろげな記憶では、ナガノは精神科医だかなんだかでカウセリングも行なっているとかで話を聞いてもらった……ような気がしなくもない。真偽を確かめるためにもとりあえす会ってみようと泉は考えた。
同窓会の案内、そして中学校時代の同級生である浅岡英治からの連絡も泉の背中を押した。
二日前、はかったかのように数年ぶりに浅岡からメッセージが送られてきたのだ。内容は同窓会への参加可否。どうやら浅岡も参加するか否か迷っているようだ。
『イズが来るなら行こうかと』
仕事が忙しいので難しいかもしれないと濁らせておいてから、さりげなく『他の連中は?』と探りを入れた。
『タクちゃんは参加、ヨッシーは海外出張中だから難しいらしい』
よくつるんでいた連中の名前にしかし、泉は顔をしかめた。沢田拓巳は大手出版社の編集、吉井孝太は外資系企業に就職。どちらも一線で活躍している。一部上場企業とはいえ平社員の自分とは大違いだ。
『イズがいなきゃ始まらないからなー』
浅岡がこぼしたメッセージが頭から離れなかった。
たしかに泉は中学生時代はクラスの中心的存在だった。空気を読む術にも長けていたし、何をやらせてもそつなくこなせる器用さもあった。浅岡達が想像しているのはそんな抜きん出た存在だった泉だ。
会長令嬢に婚約破棄された今の姿は見せられない。本来の泉ではないのだから。
このままでは終われない。
ある種の決意を胸に、泉はナガノと会う約束を取り付けたのだった。
約束の時間きっかりにナガノはやってきた。即座に泉は指定する場所を誤ったことを悟った。何故ファミレスなどという安っぽい店を選んでしまったのだろう。案の定、店員はおろかおしゃべりに夢中だったはずの主婦の一団までもが、突如現れた場違いな美貌の青年に釘付けとなる。
アルコールが見せた夢じゃなかったようだ。改めて見るナガノはとびきりの美男子だった。若いことを差し引いても肌が驚くほどなめらかでシミひとつない。どこか不敵な余裕を伺わせる眼差し。謎めいた微少を浮かべる薄い唇は上品でいながら蠱惑的だ。
細身の身体をカジュアルスーツに包んだナガノは、泉の姿を認めると迷わずやってきた。
「はじめまして、とご挨拶すべきでしょうか」
「いえ……」
泉は知らず知らずの内に溜まっていた唾を飲み込んだ。同性相手だというのに、心臓の音がやけにうるさかった。
「先日はご迷惑を掛けました」
「お気になさらず。私こそ出過ぎた真似をいたしました」
ナガノは向かいの席に腰掛けた。こちらを盗み見ていた店員に声を掛けて紅茶をコーヒーを注文。その動作一つ一つに泉は目を奪われた。
「実は先日お会いした時の記憶があまりなくて」
「そうでしょうね。かなりお飲みになっていましたから」
ナガノは言うには、へべれけに酔った泉は一条亜紀という女に一方的に婚約解消されたことの恨みつらみをひたすら語っていたらしい。穴があったら入りたいとはまさにこのことだった。




