表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪魔の洗礼  作者: 東方博
5/35

四(幕間)

 青年は永野尊と名乗った。

「みこと?」

「尊敬の『尊』をミコトと読みます」

 気障なそれが本名だと言う。嘘である可能性は否めなかったが、たとえ偽名でもいいと泉は思った。目的の前には些細なことだ。そんな泉の考えを見透かして、尊は「嘘など申しません」と約束した。

「あなたと私は共犯です。多少の隠し事はしても、嘘は申しませんよ」

「途中で裏切ることは」

「絶対にいたしません。あなたが私を裏切らない限り」

 泉は鼻で笑った。

「そんな保証がどこにあると?」

 対面して僅か数秒で永野尊がただならぬ人間であることは悟った。類まれな美貌もさることながら、尊には媚びる様子は微塵もない。ただそこにいるだけで他人を惹きつける。恐ろしく魅力的で、だからこそ油断ならない。

「素性を明かしたのは私なりの誠意です。名前や経歴などいくらでも詐称できますから。お疑いでしたら、どうぞ気の済むまでお調べになってください」

 北海道出身。四人兄弟の三男。東京の医大を卒業し、今は心理カウンセラーを生業としている。尊のプロフィールを頭の中に留めておく。後で調べておくためだ。探偵に調査させると本人にも宣言する。

「結構」尊は満足げに言った「それくらい用心深くなくては私の共犯足り得ません」

 それから尊は今後の連絡方法から計画の内容まで細かく説明した。なかなか大掛かりで相応の費用と時間がかかるが、実現可能な計画ーー否、泉は弱気な考えを振り払った。可能不可能の問題ではない。やり遂げるのだ。この青年と二人で。

「最後に、もうひとつだけ約束をしてください」

 尊は整った指を一本立てた。

「私とあなたは共犯であり、同志です。いわば運命共同体です。目的を果たすまでは誰にも心を奪われないでください」

 泉は眉を寄せた。言っていることの意味はわかるが、意図が読めない。

「計画が狂う可能性があります。私は無論、他の誰に対しても、決して心を許さないでください。約束できますか?」

 笑い飛ばすには、尊の顔は真剣味を帯びていた。鼻持ちならない余裕はどこにもない。

 油断は禁物。だが同志として信用はしてもいいかもしれない。復讐を遂げる時までは。

 僅かな逡巡の後、泉は尊に向かって自ら手を差し出した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ