二十
時間がある内にと思い、泉は浅岡に電話した。同窓会を欠席する旨を伝えるためだ。出欠のハガキは昨日ポストに投函しておいた。
「なんだ、イズは来ないのか」
浅岡はえらく残念がった。
「イズか来るなら行こうと思ってたんだがな」
「悪いな。どうしても今のプロジェクトが忙しくて」
「いや、仕方ないさ。そうだよなー本社勤務だもんな」
営業とは名ばかり。総務として会議の準備をすることはあっても出席したことはない。当然ながらプロジェクトに関しても泉はあくまで『手伝い』であり、企画を推進する立場ではなかったのだが、姑息に誤魔化した。
「そういえば聞いたか、ヨッシーのこと」
「吉井がどうかしたのか?」
「九州に飛ばされるらしいよ」
泉は眉を顰めた。記憶では吉井孝太はアメリカに出張しているのではなかったか。
「それがさーあいつ、ヘマしたらしくて左遷なんだって。同窓会に出ないのもそれが理由らしい」
「へえ……あいつが」
浅岡が言うには、吉井に限ったことではないらしい。クラスの女子グループのリーダー的存在だった榎本光も上司との不倫がバレて大手広告会社を退職。クラス一の秀才の加納玲奈も転職を繰り返した挙句、今は塾講師のアルバイトで食い繋いでいる有様だ。
泉は「大変だな」とおざなりに言った。
興味がない風を装ったが、自分の口が弧を描くのは止められなかった。学生時代は我こそが主役とばかりに輝いていた連中が、調子に乗った結果、自滅した。少しくらい頭が良かろうが、美人だろうが社会に出たら関係ないのだ。
浅岡との通話を切った後、泉は改めて決意した。
(このままでは終われない)
落ちぶれた連中もいる。しかし沢田のように活躍している人間もいる。そして自分は間違いなく後者にあたるはずだ。その証拠に会長令嬢にも見染められた。自分のために何十万もの金を費やして得た情報を無料で渡してくれるような人もいる。泉達也はそれだけ価値のある人間だということだ。
(たしかに亜紀は奪われたが、それは浮気だ。俺に非があるわけじゃない)
人生はいつも順風満帆とはいかないことぐらい、泉とて理解している。逆風の時にすぐさまあきらめてしまうから、吉井達は大成しないのだ。
だが、泉は違う。
この逆境も利用して、成功を掴んでみせる。少し大げさだが、婚約解消や永野尊と出会えた今が人生の分岐点のような気がしてきた。
(動き出さなければ)
泉は表情を引き締めた。
中学生時代のように、周囲から頼りにされ羨望の眼差しを注がれる存在ーー本来の自分に戻るのだ。




