十二
たおやかな指がテーブルに茶封筒を置く。思わず泉は凝視した。無地の封筒。その中に亜紀の調査書があるのだろう。
「受け取った代わりに亜紀の素行調査に協力しろとか言いませんよね?」
「ええ。五万円で手を打つとのお約束ですから」
だったらいっそ無料で譲ってくれればいいのに。存在を明かしても正体は明かさない所といい、中途半端な厚意だ。しかしこれ以上要求できる立場でないことぐらい、泉とて理解していた。
「じゃあ、先にお渡しします」
銀行のロゴが入った封筒を差し出した。五万円きっかり入れている。尊は片手で受け取り、中身を改めもせずに懐に入れた。
「どうぞ。ご覧ください」
手のひらを差し出して促す。泉は恐る恐る封筒に手を伸ばした。意外に厚みがあった。開封し、書類を取り出す。「報告書」とタイトルのついた調査書にはタイムスケジュールよろしく亜紀の一日の動向がこと細く書かれていた。とはいえ、平日は自宅と会社を行き来する他は美容院やエステサロン、スポーツジムに通う程度。休日も同様だ。正直、面白味はまるでなかった。
「特に怪しいところはないってことですか」
「とんでもない。これほど奇妙な行動はありません」
尊は先週の金曜日の欄を指差した。仕事帰りに英会話スクール、その後にエステサロン、締めとばかりに自宅に出張マッサージを呼んだりとてんこ盛りなアフターファイブ。
「エステサロンに行かれたことは?」
「あるわけないでしょう。永野さんはあるんですか」
「エステは基本的に全身美容およびリラクゼーションを目的としています。足湯、脱毛、痩身、オイルマッサージなど多岐に渡りますが、亜紀さんの場合は痩身と骨盤調整、この日は顔のトリートメントを行なっています」
ふむふむと泉は頷きーー尊が質問に答えていないことに気づいた。そしていやに詳しい。
「エステに行ったことがあるんですね」
「問題はそこではありません。痩身マッサージを受けた後に、さらにマッサージをしていることが奇妙なのです。エステのついでならば不自然ではありませんが、わざわざ自宅に呼んでまで受ける方はいないでしょう」
「……亜紀は資産家の令嬢ですから」
目も舌も肥えている亜紀とは、デートプランを立てるにも苦労した。いくら所得に差があるとはいえ、亜紀にデート費を全て負担させるわけにはいかない。自分の財布と相談しつつ、亜紀が満足するような店や商業施設を吟味していたのだ。
「資産家は品質に大金を払っても、無駄なことには払いません。ましてや亜紀さんは次期社長とも噂される方でしょう? 仮にエステに十、二十万使ったとしても、十万でサービスを受けた後にさらに十万払って同じサービスを続けて受けるとは考えられません。何らかの理由があるはずです」
言われてみれば、確かにそうだ。
「でも、だとすれば、どうして亜紀はそんな無意味なことを」
「金曜日の夜、すなわち週末の夜にマッサージを呼ぶことが亜紀さんにとって重要なことだとしたら」
尊は声を潜めた。
「浮気相手である可能性はあるかと」




