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第4章ー19

 そんなアラン・ダヴー大尉の内心を忖度することなく、戦況は動いていく。

 大隊長の怪我の程度は重傷だが、1月程で戦場復帰可能なものだった。

 そのために。


「大隊長代理を暫く務めろですか」

「あの時に全く問題なかっただろう。お前がやれ。他の中隊のことも、お前ならある程度は把握しているからな。何だったら、少佐に昇進の推薦書をつける」

「分かりました」

 ダヴー大尉は、大隊長が復帰するまで、連隊長の指示(及び推薦と、師団長命令)で、大隊長代理を務めることになった。


 この指示について、ダヴー大尉自身は、スペインで上官のドゼー中佐を看取ったことを思い出して、感傷に耽ったが、周囲や部下は歓迎した。

「頼んだぜ。大隊長代理殿」

(大隊長代理という重責から逃げられた)同僚の中隊長達は、ダヴー大尉に言う有様だった。

 代理というのは責任だけ取らされかねない嫌なポストだからだ。

 一方、部下は素直だった。


「ダヴー閣下の下で、ナポレオン皇帝陛下以来のウィーン入城ができるな」

「おい、閣下は将軍に使う称号だ。大尉に使うな。もっとも10年もすれば、そう呼ばれそうだな」

「24歳の若さで代理とはいえ大隊長ですからね」

 ルイ・モニエール少尉やフリアン曹長までが、悪乗り気味の喜びを示した。

 部下にしてみれば、有能な指揮官に率いられるのが、自分が生き残るのに最善の近道だからだ。

 その光景を見たダヴー大尉は、少し心が癒えるのを覚えた。


 そういった苦戦もあったが、インスブルックで合流した伊軍という援軍が加わった仏軍は、ウィーンへの最終前進を7月半ばには始めた。

 クルーゲ将軍率いる独南方軍集団はベルリン防衛のために部隊を引き抜かれたこともあり、この当時には仏伊連合軍に対して、兵力比が3分の1以下に落ち込んでいた。

(なお、戦況が末期的な状況にあったことから、独軍の軍紀が緩みがちになっており、一部の将兵が脱走して連合軍に投降を図ることが増えてきたのも、独軍の戦力を低下させていた。)

 国民突撃隊と共闘することで、少しでも独軍と連合国軍との兵力比を補っていたが、これはこれで独市民の犠牲を増すことになっていた。


 もっとも、これについてはどこも同じであった。

 プラハ等、チェコの防衛にあたる独中央軍集団の一部も同様の事情から兵力不足に苦しんでいた。

 むしろ、チェコの防衛にあたる独中央軍集団の方が深刻だった。

 何しろチェコ系の民族は、国民突撃隊への志願を表面上は行ったが、実際に英軍を主力とする連合国軍が接近すると速やかに白旗を掲げて投降するなり、逆に独軍に射撃を浴びせる有様で、ブラウヒッチュ元帥は終には国民突撃隊の解散を事実上は決断する有様になったからである。


 こういった事情からスロヴァキア軍は、故郷防衛の必要があるとしてスロヴァキア国内に完全に引き上げを完了する有様であり、プラハ陥落後速やかに、英仏米日等の連合国に無条件降伏する旨をスロヴァキア政府はスイス政府等を通じて秘密連絡していた。

(本当は早く無条件降伏したかったが、ソ連軍進駐のリスクを考え、速やかに連合国軍が進駐できるようになったうえでの無条件降伏をスロヴァキア政府は連絡してきたのである。

 なお、連合国側もこの秘密連絡を受け入れていた。)


 こういった戦況の中で仏伊連合軍は着々と進撃を続けることに成功した。

 そして、7月末に遂にウィーンを視界に収めることにダヴー大尉率いる歩兵大隊は成功していた。

「あれがウィーンの街か」

 ダヴー大尉はそれを目にした瞬間に物思いに耽った。

 同姓の仏元帥がナポレオン1世の下で入城を果たした、かつての墺帝国の首都。

 そこを今、自分がナポレオン6世の上官として攻めようとしているとは。

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