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第4章ー18

 実際、後述するが、この当時、仏空軍部隊の一部まで動員してアイゼンハワー将軍は、ベルリン進撃の準備を進めており、そのために墺方面における仏空軍の支援は低調なものにならざるを得なかったのである。

 そして、仏軍の後方からの砲爆撃が一段落した後、ダヴー大尉は、他の部隊とも共闘して、独軍の陣地を強襲したのだが。


「擲弾筒を、あそこに集中して打ち込め」

「はい」

 ナポレオン6世を死なせる訳には行かない。

 ルイ・モニエール少尉の傍にダヴー大尉は陣取り、少しでもまずいと見て取ると口を挟んだ。

 本当なら自分がやるべきことではない。

 だが、独軍が巧みに築いた陣地が、早々砲爆撃で崩れる訳が無い。


 そして、自分の耳が確かならば、様々な銃声が独軍から聞こえてくる。

 これは、独軍の部隊の装備が統一されていないことを暗示している。

 ということは、旧式の装備を保有した国民突撃隊が、独軍部隊と共闘している可能性が高い。

 独軍部隊なら、軍人同士なので、行動について暗黙の推測がお互いにできる。

 しかし、国民突撃隊は素人の集まりの公算が高い。

(勿論、全部が全部、素人の集まりという訳ではなく、第一次世界大戦帰りの豊富な戦歴を持つ高齢の元軍人に率いられた国民突撃隊も存在している。)

 そのために十中八、九は余裕をもってダヴー大尉達は返り討ちにしているのだが、問題は残り一、二で。


「何」

 ダヴー大尉の目の前で、モニエール少尉達が反射的に固まった。

 ある意味で素人の怖ろしさだ。

 国民突撃隊の隊員が、後方噴射を考慮せずに自ら発射したパンツァーファウストで足をやられて、隠れた位置から絶叫した。

 幾ら訓練を積んだとはいえ、絶叫に心理的虚を衝かれ、一瞬、モニエール少尉達の動きが固まる。


「バカ者。固まるな」

 それを見たダヴー大尉は喝を入れた。

 実際、モニエール少尉達が固まったのを遠望したのだろう、独軍の機関銃がやや遠方から乱射してきた。

 モニエール少尉は軽傷で済んだが、他の下士官兵が死傷する。

 ダヴー大尉は、擲弾筒を持った兵を直に指揮し、機関銃座に擲弾筒を何発も叩き込み、一時的に制圧するとともに、衛生兵に負傷兵を助けさせて、負傷兵を後退させた。


「すみません」

「謝るのは後だ。目の前の敵を潰す」

 すぐ傍に戻ったモニエール少尉の謝罪を半ば無視し、ダヴー大尉は更に陣頭指揮を続ける。

 ダヴー大尉にとっては楽しいことに大隊長までが負傷し、ダヴー大尉が臨時大隊長を務めることになる。

 最終的に朝から夕方まで戦った末に、歩兵大隊所属の中迫撃砲小隊等を駆使し、ダヴー大尉は目の前の独軍と国民突撃隊の混成部隊を何とか後退させることに成功し、ようやく独軍の陣地を制圧した。


「最終的な損害は、ざっと1割と言ったところか」

 ダヴー大尉は自らが結果的に指揮してしまった歩兵大隊の現状を噛みしめていた。

 今日の戦闘で約1000名の大隊員の内20名余りが戦死し、70名余りが負傷している。

 一方、戦場に遺棄された独人の遺体は200体を超えている。

 独軍ではなく、独人と書いたのは、その内の過半数が軍服を着ていないからだ。


 腕章等で識別可能になっていたので、一応、民兵隊として取り扱うのが相当として、戦場に取り残された負傷した(100名程の独兵を除く)独人200名余りは、戦時捕虜の待遇を受けている。

 もっともその内過半数がかなりの重傷で、更に傷口からの感染症リスクも合わさり、最終的には独兵も併せるならば全部で300名以上が亡くなると推測されている。

 その中には少年まで含まれている。


 ダヴー大尉は味方の損害に加えて、大量の独の民間人にも死者が出る現実に、煙草までが本当に苦々しく感じられてたまらない想いがしていた。

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