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第4章ー15

 アラン・ダヴー大尉とルイ・モニエール少尉がそんな会話を交わしたのは、理由がないことではなかった。

 お互いにナポレオン戦争で、何故にナポレオン1世が敗北に至ったのかを知っていたからである。

 当時のナポレオン1世はそれぞれの首都ウィーン、ベルリンを敵対すれば占領に至るほどの勝利を墺や普相手に収めることに成功している。

 これは、それまでの仏が基本的に成し遂げられなかったことで、もし三十年戦争やスペイン継承戦争でこれだけの戦果を仏が挙げられていれば、その時点で仏は欧州の覇者になれていただろう。

 だが、ナポレオン1世はそれだけの戦果を挙げても、仏を欧州の覇者にすることはできなかった。


 勿論、細かく見ていけば、これには様々な原因があるだろうが、その最大の原因の一つが露の存在なのは間違いなかった。

 これまでの戦争とは違って、露という大国が存在し(一時的に妥協することはあっても最終的には)反仏活動を露が止めなかったことが、ナポレオン1世のロシア遠征を招き、それに大敗したことによって仏は最終的には欧州の覇者になれなかったのだ。


 勿論、時代は流れており、露は今や存在せず、ソ連という国ができている。

 だが、ソ連を打倒せねばこの第二次世界大戦は終わらないという予測は、ロシア遠征による敗北がナポレオン1世が率いる仏帝国の崩壊を招いたことを知る人にしてみれば、将来につき昏い想いをさせることに違いなかった。

 

 昏い想いを思わずした二人の間に、暫く沈黙の時が流れたが、ダヴー大尉が意を決して沈黙を破った。

「先のことを考えすぎても仕方ありません。ナポレオン1世の時と違い、日米という味方が我々にはいます。そして、英も今度は味方に付いている。今度は我が仏が勝利を収めると信じましょう」

「そうだな。そう信じよう。悪いことばかりを考えても仕方ない」

 モニエール少尉もそういったが、その後でお互いに気づいて苦笑した。


 何だか、ナポレオン1世とダヴー元帥のやり取りを二人でしていたな。

 お互いに過去に毒されていたようだ。


 そんな二人の想いを考えることなく、1941年6月末、まず仏軍の旧墺への侵攻作戦が発動された。

 これには理由があった。

 アイゼンハワー将軍を今や最高司令官とする連合国軍は、様々に作戦を検討した結果、まず南方での攻勢発動を決断していたのである。

 いわゆるバルカン半島諸国が中立である以上、ソ連軍の救援作戦は(相対的に)南方では困難だった。


 ソ連軍が動けない以上は、独軍が動くしかない。

 それによって、南方に、ベルリン以外への防衛作戦に少しでも独軍を誘致し、それによってベルリン攻略を容易にしようというのが、連合国軍の基本作戦だったのである。


 更にこれにはもう一つの理由があった。

 少しでも墺で独軍を消耗させると共に、ハンガリー等への独軍の将兵の脱出を妨げるという理由である。

 

 この当時、独ソ(及び独の従属国であるスロヴァキア)は連合国に敵対していた。

 そして、ハンガリー等のバルカン半島諸国の一部は中立を唱えつつも、実際にはかなり独ソ寄りの態度を示しており、陰に陽に独ソに物資等を提供していたのである。

 連合国としては、少しでも世界大戦終結を早めるために、南方での攻勢を連合国軍は発動することで、独ソ寄りの中立国に軍事的恫喝を加えて、完全に独ソに見切りをつけるように圧力をかけたのだった。


 そういった事情が末端にまで完全に伝わることは無いが、何となく感じられるものである。

 ダヴー大尉は、リンツからウィーンへの攻勢に参加しつつ思った。

 まずは南方での攻勢という訳か。

 いかに早く、ハンガリーとの国境線に連合国軍が進撃できるかがカギを握ることになりそうだな。

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