第4章ー12
ともかく実際に土方勇中尉が小隊長を務める戦車小隊の下士官1人が、先日、梅毒にやられて治療のために入院することになったとあっては、土方中尉にしても他人事ではない。
さすがに鉄拳制裁まではしなかったが、既述の上層部の動きもあり、土方中尉はその下士官を厳重に訓戒して、他の部下にも女遊びは厳禁だ、とまでは言わなかったが、女遊びの危険を考えろ、と注意する羽目になった。
ちなみに岸総司大尉は、異母姉の千恵子の注意を土方中尉から伝えたら、そのまま流してしまった。
岸大尉によれば、千恵子姉さんに言われるまでもなく、幾ら独身に戻ったからとはいえ、そんな所には行かないとのことだった。
そして、土方中尉の知る限り、アラン・ダヴー大尉は、行こうと思えば仏軍の慰安所を当然に利用できる筈だが、妻に悪いからと基本的に傍にも行こうともしないらしい。
両親に似ない堅物だ、と土方中尉は感心していた。
(実際には、カサンドラとその間の子のことを思い出してしまうので、アランは行きたがらないのだが。)
話がずれすぎたので、元に戻す。
「ベルリン攻略に向かうのは、米日ポーランドの連合軍、プラハ攻略に向かうのが英軍、ウィーン攻略に向かうのが仏軍か」
他にベルギー、オランダ、ノルウェー等の国々の軍隊も参加しているが、主力と言えるのはその5か国の軍隊で、散々揉めた末に、最高司令官であるアイゼンハワー将軍の判断でそのように手分けをして中欧への侵攻を図ることになった。
そして、本来の独領をこの8月中に米日ポーランドの連合軍で解放することになっている。
更にチェコスロヴァキアを英軍が、旧オーストリアを仏軍が解放するのだ。
そのために部隊の再編制、再配置等が行われることになった。
ちなみに、土方中尉が現在、展開しているのは、ハンブルクの近くだった。
これは日本海兵隊がバルト海沿岸に米軍と共同して上陸作戦を展開するかのように装うためであり、実際には三国連合軍の先鋒部隊が独軍の防衛線を突破した後に、その突破した穴から更なる戦果拡大を日本海兵隊が狙うためであった。
ちなみにハンブルクが連合軍の空襲で大被害を被ってからは、半年余りが経っている。
ドイツ自身によっても復興作業が行われていたが、戦禍により遅々として進んでいなかった。
だが、皮肉なことに連合国軍の占領下に置かれたことで、物資が提供されるようになり、復興が進みつつあるようだ。
ついでにそれなりのことも起こっている。
軍医の斉藤少尉らが性病対策任務に就かされたのは、そういったことも背景にあるらしかった。
「本当に上陸作戦を展開するぞ、と上層部に言われたら、信じてしまいそうだな」
土方中尉の耳にまで入っている情報だと、欺瞞の為に日本海軍が孜々営々と建造してきた上陸作戦用の特殊船舶が独空軍の空襲等を警戒して英本土に集結しているらしい。
実際には日本から遥々物資を運んできただけなのだが、そのまま英本土に待機している。
第二次世界大戦勃発後に特殊船舶の建造が促進されたことから、今なら日本海兵隊は4個師団の上陸作戦を断行することが可能らしい。
更に米海兵隊も増強されており、こちらは2個師団(実際には1個師団は錬成途上で実戦投入には今しばらくかかるらしいが)が、上陸作戦可能なように装っている。
日本の艦隊が不参加でも、米英仏の戦艦群が全て協力してくれるならば、戦艦だけで20隻以上から成る艦砲射撃の下で日米の海兵隊は上陸作戦をバルト海で展開できる。
航空支援については、言うまでもない。
コペンハーゲン等の飛行場を活用した空軍部隊、更には英米仏の空母部隊の艦載機が加わる。
この史上最大の上陸作戦は、まず成功するだろう。
一応、補足説明をすると、この世界では仏海軍の空母ベアルンは、日本からは艦載機の提供を受け、英からは油圧式カタパルトの提供も受け等という形で強化されています。
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