第4章ー11
こういった状況に対する防衛体制を築くことを、スターリン率いるソ連政府、軍は優先させたいという考えもあり、独に対する救援軍等の派遣には消極的な状況がソ連には起こっていた。
だが、欧州戦線が西欧から中欧に、更に東欧を目指そうとしている現在において、ソ連軍の影が増しているのは否定できない状況だった。
極端なことを言えば、スターリンの気が変わらない内に、連合国軍としてはベルリンを攻略して独を無条件降伏に追い込んでしまいたいという状況にあった。
そのために連合国側の各国政府、軍の上層部が協議した結果、あらためて各国の分担区域を決め、速やかに独全土を制圧しようという軍事戦略、作戦が発動されることになったのである。
「結局、作戦発動は6月下旬になったか」
6月半ばのある日の夕方、土方勇中尉はようやく愛車といえる存在となってきた零式重戦車改を用いての訓練を終えた後、訓練の成果を噛みしめつつ、煙草を吸って独り言を言っていた。
連合国軍最上層部では、各国政府の干渉等も受けながら、中欧侵攻のために一大作戦の準備を行った。
各国軍の担当を決めて、その作戦発動のために部隊や物資を移動させねばならない。
「散々壊しておいて、それを復旧する費用もこちらで負担か。酷い浪費にも程があるな」
部隊や物資を移動させるとなると、鉄道や道路を復旧させる必要がある。
更に、後方となる西ドイツの民生復興のためにも鉄道や道路の復旧は必要不可欠だった。
散々破壊されている西ドイツの現状からして、現地にそんな復旧費用を賄える余裕はないといって良い。
結果的に、連合国(中でも米国)が、復旧費用を払うしかなかった。
「動かないなら動かないで問題が生じるか」
厳正な軍紀を掲げて略奪等は少なくとも日本軍内ではほぼ阻止しているが、早速、若い男の集団である軍隊に付き物の問題が起きている。
土方中尉が負傷した際にお世話になった斉藤少尉は、軍医として今でも第1海兵師団にいるが、最近、妙に気が立っているので、それとなく事情を探ると日本海兵隊全体に性病(梅毒、淋病等)の蔓延の兆候が出つつあり、更に広まりつつあるということで、その対策班の一員にされたらしい。
軍医に性別による差異は許されないという事から仕方ないが、若い兵にとっても嫌だし、先輩の梅毒り患から地獄を見せられた斉藤少尉にしてみても二重に嫌な話で、斉藤少尉の気が立つのも無理はなかった。
(この際なので、ついでに描くが)
ちなみに(この世界の)日本軍は、仏伊軍等と違い、軍が直接関与する慰安所を設けたりはしない。
現地の将兵の現地での良識に任せるという英米軍等と同じ態度であり、日本軍の関与しない内に、気が付けば日本兵目当てのそういった商売の店ができている(ことになっている)。
最も実際にはこういったことの得意な闇絡みの商売人が動いて店を作っているのは、日本軍の上層部にしてみれば半ば公然の話だった。
なお、土方中尉が父から陰で教えてもらった話だと、完全な犯罪組織のユニオンコルス等までこれで金儲けしようと動いているらしく、土方中尉がこういうことに嫌悪感を持つ性格であることもあいまって土方中尉にしてみれば本当に嫌な話だった。
そして、どうやって知ったのか(大方、祖父が教えたのだろうが)、妻の千恵子はそんな店に行くな、と手紙に書いてよこしている。
義弟の岸総司大尉にも釘を刺すようにと千恵子は書いてよこしていた。
祖父が、アラン・ダヴーのことを千恵子に明かしたとは思えないので、千恵子が単純に心配しているだけなのだろうが、千恵子にアランのことを教えていない土方中尉にしてみれば、背中に妙な冷や汗が出てくる話ではあった。
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