第4章ー8
土方歳一大佐は、この際に自分の考えを周囲に訴えることにした。
「ともかく各国の足並みの乱れを何とかしないといけません。そして、現在の状況において最大の論点になっているのが、ベルリン占領の栄誉を誰が手にするか、という問題です」
日本の遣欧総軍司令部の面々は、土方大佐の意見を傾聴しだした。
「政治的な思惑が色々と絡み合ったことから複雑化していますが、軍事的な側面も交えて各国を説得すれば状況は好転すると私は考えます」
土方大佐は、そこで言葉を切った。
「軍事的な側面とは」
北白川宮成久王大将が口を挟んだ。
「言うまでもありません。どうすれば少ない損害で速やかにベルリンを占領できるかです」
土方大佐は即答し、周囲はその言葉に唸った。
「現在、連合国軍はエルベ河を基本的な戦線として独軍と対峙しています。エルベ河を渡河して独軍を撃破することでベルリンを占領し、それで対独戦を終結させるというのが連合国軍の基本方針です。そういった観点から軍事戦略、作戦を立てるとしたら、どのような作戦が最善でしょうか」
土方大佐は更に言葉を続け、遣欧総軍司令部の面々はその言葉に従って作戦を考えこんだ。
「私としては、バルト海からの上陸作戦を行うぞと牽制、陽動作戦を行うことにより、独軍の防衛態勢に綻びを生じさせることで、ベルリン攻略を目指すのが最善であると考えます。そのための部隊として、最善の部隊はどこか、言うまでもありません。日米です。何しろ強襲上陸作戦を展開可能で、実際に断行した部隊を持つのは日米だけです」
土方大佐は強調した。
「ふむ。一理あるな」
石原莞爾中将が同意の声を挙げた後で続けた。
「日本軍内部、及び世論対策からも一理ある」
「その通りです。幾らサムライ、等と称賛の声を周囲から様々に浴びていても、参戦から2年近くが経ち、更に多大な損害を我が海兵隊を始めとする日本軍は被っています。更に日本本土防衛の為だけならともかくとして、欧州にまで我々は赴いて戦っているのです。将兵の一部の精神は壊れつつあり、更に日本の世論もそろそろ戦に倦みつつあります」
「それを打破するためには、ベルリン攻略という栄誉を日本も手にする必要があるという訳か」
土方大佐の言葉に、北白川宮大将が答え、石原中将等が無言で肯いた。
「その通りです」
土方大佐も肯定した。
「ふむ。確かに日本がベルリン攻略の一翼を担うというのは、確かに日本の世論対策、更に欧州に派遣されている日本軍の士気を高めるという観点から一考に値する。更に米国も巻き込む以上、日本単独で栄誉を勝ち取ろうとしているという邪推もされにくい」
土方大佐の言葉を聞いて、アイゼンハワー将軍がその場にいれば、日本の皇族の怖ろしさがよく分かると言われかねない台詞を北白川宮大将が吐いた。
「それにまだまだ世界大戦は続くでしょう。モスクワやレニングラード、スターリングラード等、まだまだ各国が栄誉を競える目標はあります」
「その言葉には異論がある。早くこの世界大戦は終えねばならない。だが、土方大佐の言葉は最もだ。独ソが講和に応じない限り、世界大戦は続くからな」
土方大佐の言葉に、石原中将は異論を差し挟んだが、全面的に反対するつもりは無いようだ。
世界永久戦争論を唱える石原中将だ。
この第二次世界大戦が世界永久戦争の序盤になりかねないという危惧を持ち合わせている。
「だが、ベルリンが最終目標で無い、という言葉は英仏等の説得に役立つだろう。この際、やれる限りのことをやって議論をいい加減に終わらせるべきだ。日米に加えポーランドがベルリン攻略という線で動こう」
北白川宮大将が最終的な決断を下して、周囲もその言葉に肯いた。
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