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第4章ー6

 伊の独(というよりウィーン方面)への侵攻作戦の指揮を執ったのは、グラツィアーニ将軍だった。

 グラツィアーニ将軍は、(当時の伊軍の中では、という大前提が付くが)有能な将軍だった。

「山岳地帯への攻撃を行うとはいえ、伊軍の能力的にはきつい話だな」

 そう(内心で)ぼやきながら、グラツィアーニ将軍は、伊の独への侵攻作戦の陣頭指揮を執った。


 実際、グラツィアーニ将軍は、「20世紀のスキピオ・アフリカヌス」と伊国内で謳われるだけあって、補給の重要性や伊軍の実態等を把握しており、無理のない攻勢を執っていた。

 この1941年5月に伊が独ソに宣戦布告を行った当時、伊本国には約70個師団余りが展開しており、其の内の約45個師団が、独への侵攻作戦に投入された。

 一方、独のケッセルリンク将軍が伊軍の侵攻に対処するために準備できていた兵力は10個師団にぎりぎり満たないというのが現実だった。

 つまり、師団数から言えば4倍以上の優勢を伊軍は誇っていたのである。

 だが、グラツィアーニ将軍もケッセルリンク将軍も、お互いにそれは全く違うことが分かっていた。


 まず、伊の師団はいわゆる二単位師団であり、歩兵6個大隊を基幹とする師団だった。

 一方の独の師団はいわゆる三単位師団、歩兵9個大隊を基幹としている。

 つまり、独伊の実際の師団の兵力比を考えるならば、兵力的には伊軍が独軍の約3倍といったところが現実と言ったところだった。

 更にそれぞれが装備する兵器の質量を勘案すれば、更に伊軍の現状は悪くなってくる。


(今となっては周知のことだが)当時の伊軍は懸命に装備の近代化、更新を図っていたが、伊の工業基盤の貧弱さ、更にエチオピア戦争やスペイン内戦で痛手を被ったことから、伊軍の装備の近代化、更新が完了するのは、どんなに急いでも1940年代末になるというのが現実だったのである。

 そのために当時の伊歩兵師団の装備は、既に旧式化した75ミリ砲24門と105ミリ砲12門を基本装備(しかも輓馬牽引)とするという惨状であり、このことを知った諸外国の陸軍の軍人から、いわゆる列強の陸軍の中では、伊の歩兵師団は最弱の歩兵師団火力であると太鼓判を押される有様だった。


(ちなみに、同時代の日本歩兵師団は105ミリ砲36門と155ミリ砲12門を基本装備(自動車牽引)としているといえば、いかに伊歩兵師団の火力が貧弱だったか、推察できると思われる。

 それに加え、日本歩兵師団は旧式化したとはいえ97式戦車(改)54両を主力とする戦車大隊が通常付属しているし、更に擲弾筒や携帯式対戦車噴進砲等の歩兵近接火力も充実しているのに対し、伊歩兵師団はそんな戦車大隊等は夢物語という哀しい現実が加わる。)


 こうしたことから、グラツィアーニ将軍は、平押し、芸が無い、と叩かれようとも、兵力を集中して少しでも伊軍の火力を増大し、その上でじりじりと独軍を圧すという作戦を執らざるを得なかった。

 グラツィアーニ将軍にとっては幸いなことに、独空軍の戦力は既にかなり低下しており、伊空軍が基本的に航空優勢を確保してくれていた。

 航空支援を活用しての前進、エチオピア戦争等での必勝法をグラツィアーニ将軍は活用した。

 

 ムッソリーニ統領から、我が伊軍は師団数にして独軍に対し4倍以上の優勢にある以上、積極的かつ大胆な攻勢を執るべし、と督励されようとも、グラツィアーニ将軍は自らの信念を曲げなかった。

 更に山岳地帯で防御側優位という地形的不利も加わる。

 後に多くの戦史家に

「山岳の阿呆」

「もう少し大胆に攻撃すべきだった」

 と言われているが、グラツィアーニ将軍は伊軍の損害を少なくしつつ前進を図り、それに成功したのだ。

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