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第4章ー2

「それにしても国府中将の事は残念だった」

 新師団長になった太田実少将は、国府中将のことをまずは悼んだ。

 太田少将にとって、国府中将は第一次世界大戦の際は直属の上官だったこともある。

 そのこともあって、太田少将は国府中将に好意的だった。

 何も自死同然の壮絶な戦死を遂げるまでの事は無かったものを、太田少将はそう思っていた。


 一応は現時点において、フルダ渓谷を巡る戦闘に際して、特に何が悪かったという指摘は出ていない。

 何故にあのような敗北を日本海兵隊は喫したのか、米国等の協力も得て、日本本国の海兵本部や軍令部で調査が行われているが、敢えて言えば最高責任者である以上は北白川宮成久王大将の責任、だが、あの兵力差からすると敗北は半ばやむを得ないという方向で話が進んでいる、と太田少将は把握していた。

 だから、国府中将はそこまで自分を追い込むことは無かったのだ。

 生き延びていた場合、独軍に確かに奇襲を受けたことから何らかの処分くらいはあったかもしれないが、予備役編入等の厳罰は無かったろう。

 太田少将はそう考えていた。


 太田少将の言葉に、石川信吾大佐も同感の意を示した。

「私がもっと国府中将を支え、また、身辺に目を配るべきでした。そうすれば、あんなことまでは」

「そのことは君の責任ではない。だが、第6海兵師団を立て直さねばな」

「はっ」

 太田少将の言葉に、石川大佐は敬礼した。

 その瞬間に第6海兵師団の立て直しは実動を開始した。


 一方、岸総司大尉は新人の海兵隊中隊長として部下の面々の顔と名前の一致にまずは勤しんでいた。

 その中の一人の小隊長の名を見た瞬間、岸大尉の記憶のどこかに引っかかるものがあった。

「履歴関係の書類を見るか」

 上官として、部下の履歴は把握する必要がある。

 そう大義名分を言い訳にして、履歴関係を見た瞬間、岸大尉の記憶が閃いた。


「川本泰三中尉。まさか、部下になるとはな」

「私は初対面ですが」

「君はベルリンオリンピックのサッカー日本代表の一員だろう」

「履歴にそんなことが」

「書いていないよ。だが、年齢に早稲田大学卒業。そして名前。同姓同名で同学年の早稲田大学の学生が、もう一人いたのなら話は別だが」

「補欠なのに私まで覚えていてくださり、光栄です」

「いや、サッカーが好きなのでな。もっとも選手としてはサッパリだったが」

「それでも感激です。サッカー日本代表監督の石川信吾大佐が師団参謀長なのを知った時にも驚きましたが、それ以上の驚きです」

 岸大尉と川本中尉は思わず、軍務以外の事を語り合った。


「サッカーのことはそれくらいにして、中隊の再建のことを話そうか」

 川本中尉は、岸大尉が赴任する以前からの小隊長だった。

 そのことから、岸大尉は中隊のことを話そうとしたのだが、川本中尉はもう少し何か語りたそうだった。

「何か言いたいのか」

「軍務に関することではないのですが、折角なので腹にたまっていることを話したくて」


「私でよければ聞くぞ」

「ありがとうございます」

 岸大尉の許可に対し、川本中尉は頭を下げて語り出した。


「サッカー日本代表の大友さんが戦死されたのはご存知ですか」

「初耳だぞ。間違いないのか」

「間違いありません」

 川本中尉は涙を零した。


 大友はサッカー日本代表のMFで世界最高の司令塔の1人と目される存在だった。

 岸大尉は衝撃を受けた。

 既に正GKの秋月が戦死したと聞いている。

 日本サッカー界の貴重な人材が戦争で失われていく。


「世界大戦の最中に何を言っているのだ、と言われそうです。でも、どうにも腹にたまって」

「確かにな。惜しい人を亡くしたものだ」

 岸大尉は目が潤むのを覚えた。

 岸大尉の表情を見たのもあるだろう、川本中尉は号泣しだした。

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