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第3章ー23

 そして、5月下旬にはウラジオストクを除いてイマン以南の沿海州方面の主要都市は、日本軍の重攻囲下に徐々に置かれるようになっていった。

 日本軍はわざと主要都市に対しては直接攻撃を避ける作戦方針にこれまでの戦訓から転換していた。

 これまでの様々な都市を巡る戦闘から、日本軍(や米満韓軍)が把握した戦訓は、ある意味で冷酷極まりないものだった。

 それをこの沿海州への侵攻作戦では反映した作戦方針になっていたのだ。


「速やかに投降してください。投降して全面的な武装解除に応じれば食料等を提供します」

「ふざけるな」

 そうソ連軍のマンゾフカ市防衛司令官は、日本軍からの投降勧告に拒絶の回答をした。

 だが、その一方で。


「食料が尽きました。どうやって生き延びれば」

「水でも飲んで耐えろ。祖国を民主主義を護る為だ」

 部下からの問いかけに、マンゾフカ市防衛司令官はそう答えていた。


 最早、マンゾフカ市においては、住民が闇で隠匿していた食糧を除けば、一粒の麦さえも無いという有様に転落している。

 餓えに耐えかねて白旗を掲げて脱出を図る市民もいるが、祖国に対する裏切り者、敵前逃亡としてソ連軍から銃撃を受ける有様だ。

 ソ連軍にしてみれば、彼らは祖国の民主主義の裏切り者に過ぎなかった。


 これを攻囲している日本軍は非難しているが、そんな事実は無い、全ての住民は祖国ソ連に対して全面的に忠誠を誓い、祖国に殉じる決意を固めている、と自分は全面的に主張している。

 嘘も100回言い続けて、事実を認めなければいいのだ。

 祖国を民主主義を護る為に必要なことなのだ。


 こういった状況を打破するために、食糧を隠匿しているのが判明した住民は家族も含めて容赦なく人民の敵として銃殺刑に処しており、その食料を兵士に分配している。

 それに、自分達は餓死することはあっても投降する訳には行かない。

 もし、自分達が日本軍に投降したら。

 欧州方面に避難している自分達の子弟は、祖国の裏切り者の家族として過酷な取り扱いを受けた末に惨殺されるのは間違いない。

 そうマンゾフカ市防衛司令官は考えていた。

 そして、マンゾフカ市防衛司令官の周囲の面々もそう考えていた。


 こういった状況が他の都市でも起こったために、沿海州の主要都市では日本軍の重囲下に陥ってもすぐに投降することは無かった。

 最後には各都市内部で人肉市場が闇で作られる有様になったという。

 こういった状況に鑑み、ソ連政府は非戦闘員である住民に対する人道的取り扱いを日本軍がするように全世界に訴えた。

 日本軍は非人道的だ、食糧等の住民の生存に関わる物資は無償で提供するべきだ、とソ連政府は訴えた。

 だが、それを実際に日本軍がやると。


 ソ連政府が、日本軍から提供された食料等の物資を軍の兵士や共産党幹部に渡すだけで、実際の住民にはまともに食料等の物資が届かないのは自明の理だった。

 ソ連政府が、そんなことはない、民主主義国家である我々がそのようなことをすると考えるのは民主主義国家に対する冒とくであると幾ら訴えようとも、日本政府(及び日本政府を支持する米英仏満韓等の連合諸国の政府)は考えを変えなかった。


 こうしたことから、沿海州の主要都市が陥落するのには、数か月が掛かることになった。

 最後には食料が完全に尽き果て、それこそ歩くのも銃を持つのも困難になったソ連兵が護る主要都市を日本軍は強襲して攻略していった。

 沿海州の主要都市を制圧した日本陸軍の将兵の多くは、その都市内でかつて起きた凄惨な出来事に目を背ける羽目になった。

(日本軍が制圧した後に懸命に日本軍が食糧等を提供したにも関わらず、衰弱しきっていた住民の一部は体力を回復しないまま死んでいったのだ。) 

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