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第3章ー19

 似たような不安を覚えながら、右近徳太郎中尉は進軍していた。

「手元の携帯式対戦車用噴進弾は新型で口径が増している。こいつならKV戦車といえども対抗可能な筈だ」

 そう内心では呟き、部下が疑問を呈したときには自らそう公言しているが、実戦で戦わないと本当かどうかは分からないというのが真実のところだ。


 これまで配備していた携帯式対戦車用噴進弾ではKV戦車に対抗不可能と、挙って現場から報告されたというショックから、(技術本部を中心とする)日本陸軍中央によって新型対戦車用噴進弾は開発された。

 これまで約70ミリだった口径は、約90ミリに拡張されており、英米仏等の協力も相まって当たり所が良ければという前提条件付きながら、最大150ミリの装甲を貫通可能とされている。


 その新型携帯式対戦車用噴進弾を実地に受け取り、いざという場合にはこれに頼って対戦車戦闘を行う身に右近中尉はなっていたが、内心では一抹の不安を拭い切れずに進軍している。

 かつてのサッカー選手としての経歴が(右近中尉は自覚していなかったが)不安感を増幅させていた。

 ベルリンオリンピックで、日本代表が相手なら必勝だと大戦前には内心でせせら笑って、イタリアやドイツのサッカー代表選手団は日本代表と対戦したが、実際には惨敗を喫してしまい、面目丸つぶれになった。

 同じような事態が起きてもおかしくはない。

 何しろ初めてぶつかる兵器を装備した相手に、自らも初めて運用する兵器で対処しようというのだ。

 そう右近中尉は考えていた。


 西住大尉や右近中尉はそのような懸念を抱えてはいたが、かと言って進軍しない訳にはいかない。

 マンゾフカ近郊、ハンカ(興凱)湖の南の平原でソ連戦車部隊の集団と、日本機甲師団は5月10日、遂に雌雄を決することになった。


「やはり待ち構えているか」

 西住大尉は、眼前に見えるソ連戦車部隊を前にして呟いた。

 できる限り施していた野戦擬装をかなぐり捨てて、ソ連戦車部隊は前進してくる。

 だが、その一方で。


「できる限りの距離を執ってください。我々が対処します」

(西住大尉の耳にしてみれば)のんびり気味の声が聞こえてくる。

 西住大尉は、鼻を鳴らしながら少し後退した。

 西側から99式襲撃機の集団が駆けつけている。

「気に食わない。合理的だから尚更に気に食わない」

 西住大尉は、そう呟いた。


 中国内戦介入以来いやそれ以前から、日本陸軍は空軍による対地上支援作戦について、日夜研究してきたといっても過言ではない有様だった。

 何しろ日本陸軍の士官、下士官が海兵隊への派遣という形で(第一次)世界大戦の際に欧州に赴く以前から、日本海兵隊にとっては欧州では初陣のガリポリ上陸作戦の際に、日本海軍航空隊は日本海兵隊に対する地上支援任務を成功させたという輝かしい実績を誇っていた。

(なお。これは世界でも指折りの早期における航空隊の地上支援任務の成功例でもある。)


 日本海軍航空隊にできたことが、日本空軍にはできなくては、更にそれを深化させないでいては。

 日本空軍の名折れ、大恥である、という認識は(第一次)世界大戦終結後、日本空軍建軍以来、日本空軍上層部がずっと持ってきたことだった。

 それ故に(一部からは戦術空軍に堕したという批判があるが)、日本空軍は第一任務が制空権確保、第二任務が地上支援という形で、ずっと整備されてきたのだ。


 そして、色々と陸軍と空軍の間で試行錯誤を繰り返していく内に、前線での航空管制を行うのは陸軍の人員ではなくて、操縦士の資格がある空軍の人員が行う必要があることが分かってきた。

 だが、第二次世界大戦が始まって操縦士が大量に必要になり、優先順位の問題もありと問題が多発した。

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