第3章ー10
ちなみに、ソ連軍の侵攻によって、何故にここまで満州の農地が荒れ果ててしまっていたのか。
それは幾つかの原因が複合して起こったためだった。
まず第一に、ソ連極東領の住民の食料確保という観点から、侵攻してきたソ連軍が組織的に行った占領地からの食料輸送、徴発である。
この際にソ連軍の兵士の一部において、私腹を肥やすために略奪した物資を自分の物にする例が多発し、それが満州の住民の手元に残る食料を激減させ、住民の食料を不足させた。
中には作付け用の種籾等まで収奪した例があり、こうしたことが住民の飢餓を招いた。
第二に、住民の抵抗運動を警戒したソ連が、自国の労働力確保のためもあり、積極的に働き手となる若い男性を大量に(一説には百万人以上とも)満州から欧州へと様々な理由を付けて連行していったことである。
ソ連にしてみれば、抵抗運動の主力となる若い男性を満州から欧州へと連行することは、自国に対する抵抗運動を困難にするとともに、兵士への動員によって不足している自国の労働力確保のために一石二鳥の妙案に他ならなかった。
だが、裏返せば、そのようなことをされては若い男性が連行された後に残された老人や女性、子どもでは全ての農地の維持は困難な話になってしまう。
残された者が維持できるだけの農地を耕すことになり、それによって手に余る農地は荒廃するという現象が引き起こされることになった。
第三に、時代的にいわゆる共産党の細胞が、満州の農村地帯にもそれなりに浸透しており、ソ連軍の満州侵攻に呼応して蜂起したのだが。
そのことが、蒋介石率いる中国(満州国)政府の大規模な報復を招いたということである。
満州の農村地帯にソ連軍侵攻前に潜んでいた共産党の細胞については、最大規模に見積もっても数万人程度しか満州全体にいなかった(なお、実際に蜂起したのは1万人にも満たない)らしいが、蒋介石率いる中国(満州国)政府は、ソ連軍の満州侵攻が一時的に成功したのは共産党の細胞によるものだと主張して、日米韓の支援により回復した土地において共産党の細胞狩りを大規模に行った。
それにより、住民の間では密告合戦までも起こり、実際には共産党の細胞とは無関係だった住民まで巻き込まれ、このことで数十万人が逮捕、処刑されるという事態が起こってしまった。
更に厄介なことがあった。
共産党の細胞の一員であるとされた面々の多くが、住民の間では上層部を占めている例が多かったのである。
(この当時、共産主義者はどちらかというと上層部を占めるいわゆる富裕層、知識層が多かったのだ。)
そして、上層部へのやっかみ、嫉妬からの住民の密告が行わたことで、上層部に大打撃が加えられた。
こういった事情から、これまで満州の農村の現場において指導的立場にあった人材が複合した理由のためにごっそり百万人単位でいなくなってしまったのである。
それによって、満州の農村は荒廃してしまい、それを復興することは実際に満州を治めている蒋介石率いる中国(満州国)政府にとって急務になってしまった。
(勿論、その一因は蒋介石率いる中国(満州国)政府自身にあるのだが。)
こうした事情から中国本土の住民の満州への強制移住政策がとられることになり、それを日本軍が支援するという事態が引き起こされた。
この当時、既に岡村寧次大将や簗瀬真琴少将といった面々は、この動きに反対してはいたが、これまでに述べてきた事情から、不承不承ながら中国本土の住民の満州への強制移住政策を遂行せざるを得なかった。
こういったことからも、中国本土の人口は減少していくという事態が引き起こされた。
これで、一旦、中国本土の戦線描写は終わり、次話から対ソ連極東領侵攻作戦の話になります。
ご意見、ご感想をお待ちしています。




