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第3章ー8

 蒋介石率いる中国(満州国)政府が行った中国本土から満州への住民の強制移住の方策だが、基本的に家族単位で行われ、一つの村から複数の家族が移住先の村に移住するというのは、できる限り避けられた。

 これは、住民同士の繋がりを移住先の村では一から作らないといけないようにすることで、共産党員の侵入を防ごうという考えからなされたことだった。

 そして、複数の地域からの見知らぬ住民が交じり合って新たな村を構成することで、蒋介石率いる中国(満州国)政府への心理的な依存を住民に高めさせるという副次的な効果も狙われていた。

 実際、この方策はかなり効果を挙げたらしい。


「河南省の開封市の近くにあった農村に、私は子どもの頃に住んでいました。

 そして、蒋介石が率いる中国の正統政府と共産党の内戦が起きて、正統政府を助けるために日本軍がやってきました。

 私が住んでいた村には共産党支持者が多く、村の住民は日本軍の目の敵にされた末に家族単位で分断されて村は消滅させられ、家族単位で満州各地に分散して、農地再開発に当たらされる羽目になりました。


 満州での新しい生活は本当に辛いものでした。

 家族単位でできること等はたかが知れています。

 日本軍の占領下にある山東省や江蘇省、河北省等からバラバラに日本軍によって集められて来た住民、家族と共同して、私達は農地を再開発させられました。

 でも、そういった他の土地から集められた住民との意思疎通も困難を極めました。

 どうしても、お互いに話す際にはかつて住んでいた地元の方言が出てしまい、お互いにその意味が分からないことから、お互いの意思疎通ができないという事態が生じるからです。

(単に中国語といいますが、史実でも実際には21世紀になっても各地域のいわゆる方言は強く、出身地域が違うと言葉が理解できないというのはよくある話です)


 それに農地を再開発すると言っても、再開発する土地の気候、例えば、いつ頃になると寒くなり、地面が凍結するようになる等と言ったことです、が分からないとどうにもなりません。

 それに当然のことながら、再開発が終わった後に蒔く種籾や、そのための農具等も必要不可欠です。

 そういったものは、正統政府から我々に提供されることで、我々は生き延びることができました。


 とはいえ、従前住んでいた土地に比べれば、満州は相当に寒いし、不慣れな土地です。

 新たな土地に引っ越す前にいた私の兄弟3人は栄養失調や病気に罹るとか、様々な要因で相次いで亡くなっていき、生き延びられたのは私だけでした。

 また、私の両親は若かったので、移住後に農地再開発に将来は自分達に協力してくれるように、新たな私の兄弟を作ろうと努力し、何とか4人の子に恵まれましたが、こちらも妹1人以外は亡くなる有様でした。


 我々は囚人で、正統政府は看守のようなものだ、正統政府に我々は依存するしかない、と両親は私に小声で話していました。

 満州という見知らぬ土地に連れてこられた両親にとっては知人が全くいないこの場所では、お互いと自分の子どもしか、完全に心を許して話せる相手はいなかったのです。


 実際、私達が引っ越してきた新たな村の住民の中には正統政府の息が掛かった者が隠れ潜んでいたようでして、その密告によって別の村から同じ村に引っ越してきた隠れ共産党のシンパである幾つかの家族はまた別の更に過酷な土地へと強制移住させられたようです。

 私にとっては本当に嫌な時代で、日本軍がいなければと日本軍がしたことを心から恨みました」

(21世紀に刊行された第二次世界大戦時に満州に強制移住させられ、そのまま在住せざるを得なかったある古老の昔話の一節を長文に渡るが引用した)

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