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第3章ー7

 だが、簗瀬真琴少将の忌避感情にも関わらず、最終的に中国本土の住民の一部について、満州への強制移住は行われることになった。

 実際問題として、中国本土の住民の一部について強制移住させるという方法は、共産中国政府と、日本軍等の占領下にある中国本土の住民の連携を断ち切るのに最も効果のある方法だという蒋介石等の主張を、簗瀬少将を含む米内光政首相らの強制移住反対派は否定はできなかったからである。


 それに1億人以上の日本軍等の占領下にある中国本土の住民について、無為徒食させるだけの食料を提供させることは幾ら米国がバックにあるとは言えど日本にとり、手に余る話であった。

 無為徒食等させず、中国本土の現地住民に積極的に農地を耕作させればいいではないか、と言われるだろうが、そんなことを日本軍等の充分な目の行き届かない中で現地住民にさせては。


 日本軍等の情報を現地住民は共産中国政府に通報し、その情報を生かした抵抗運動が活発化する以上、現地住民による農地の工作等についても、日本軍は過敏な監視を図らざるを得なかった。

 そんなことをするから、抵抗運動が活発化するのだ、という反論もあるだろうが、既に現地住民を監視しなかったことで、現地住民の抵抗運動が活発化してしまい、それによって多数の死傷者が日本軍に出ていては。

 幾ら簗瀬少将のような現地住民に寄り添う姿勢を示す将官がいても、日本軍全体としては現地住民の監視を行わないという選択肢は取れなかったのである。


 つまり、中国本土の一部を制圧している日本陸軍にしてみれば、占領地の統治については大変なジレンマの中に置かれていたのである。

 軍事力によって占領、制圧した地域とはいえ、基本的には点と線の確保がやっとであり、面を構成する地域住民の信服は全く得られていない。

 かと言って、軍事力の使用という非常手段を講じている以上、ここでいわゆる手ぶらでの占領地からの撤退を無為無策のまま行っては、戦後に反日感情を遺すだけであり、更に(現状においては、徐々に反共という一点共闘だけから結びついていると言っても過言ではなくなっているが)親日政権である蒋介石政権の崩壊さえ招いてしまう。

 蒋介石政権が崩壊して、反日政権である共産中国が中国全土を制圧し、更に満州まで抑えてしまっては、朝鮮半島さえも何れは共産中国領土になる危険性がある。

 そのようなドミノ状況を避けるために、日本政府、軍としては、何らかの方策を占領地の住民に対して講じないという訳にはいかなかった。


 それに占領地全体における地域住民の生活状況も容易に改善するものではなかった。

 地域住民の抵抗運動を阻止する為の方策が、既述のように生活状況の観点からは逆効果になる例も多発しており、そういったことからも何らかの抜本的な改善を日本を中心とする連合国側は図る必要があった。

 実際には地域住民の生活状況の改善にならなくとも、既に十二分に悪化した状況からすれば、何らかの方策を講じてもこれ以上は悪くはなるまい、という半ば投げやりな意見が出る現状もあった。


 更に季節の問題もある。

 春先早々に住民を強制移住させねば、現地に強制移住させた後に地域の住民を自活させるための準備等を冬までにする時間が無くなってしまうという問題もあった。

 こうしたことから、1940年から1941年に掛けての冬に(簗瀬少将らはできる限りは反対したものの)中国本土の住民の一部は、満州開拓のために強制移住を強いられるという悲劇が起きることになったのである。

 この住民の強制移住は、共産中国と住民との連携を完全に断ち切るために、極めて合理的かつ冷酷に蒋介石等によって進められることになった。

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