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第3章ー6

 簗瀬真琴少将が言う禁断の方法とは何か。


 既述のように満州はソ連軍の侵攻により荒廃し、人口が減少している現状があった。

 こうしたことから、蒋介石率いる中国(満州国)政府からある方法が提案されていた。

 この方法について、ルーズベルト大統領やマッカーサー将軍といった米国政府、軍幹部は乗り気になり、米内光政首相や岡村寧次将軍といった日本政府、軍幹部は余り乗り気ではないという現状があった。

 ちなみに簗瀬少将自身は、上記のように禁断の方法であると内心では忌避していた。

 その方法とは。


 日本軍等によって確保されている中国本土の住民の一部を、満州に強制移住させようというのである。

 この1940年から1941年の冬にかけての満州であるが、既述のような状況から、人口が減少しており、農地の多くが荒廃していたのである。

 そのために満州の農地の再開発を行うための人間を集めねばならなかったのだが、そのための人間は極端に言えばどこにもいなかった。


 まず、欧米人にしてみれば、満州等は地の果てといって良い場所で、しかも冬季には極寒の地である。

 そんな所での農地の再開発等に人が来る訳が無かった。

 日韓にしても、世界大戦の真っ最中で、多くの若者が軍人として動員されている現状があり、満州開拓団募集という看板を掲げても応募してくる人間は極めて少なかった。

(日本に至っては、連合国の兵器廠の役割を米国と共に担っており、女性や十代の若者まで積極的に工場で働いている有様で、どう見ても実入りの少なそうな満州開拓団募集等、見向きもされない有様だった。)

 こうした現状から、蒋介石等が中国本土の住民の一部の強制移住を提案したのだった。 

 

 蒋介石等にしてみれば、住民と共産中国との連絡を強制的に断つことができるし、満州の農地の再開発もできる一石二鳥の方法という事だった。

 確かにそれは一面の真理ではある。

 だが、そんなことをすれば本土に残されている住民にしてみれば、明日は我が身、見知らぬ土地に強制連行されてしまうのでは、と不安感が掻き立てられ、ますます共産中国側に住民が奔るという事態が引き起こされるのではないか、と米内首相等(当然、簗瀬少将も)は考えていたのである。


 簗瀬少将は眼前の論議から敢えて少し目を背けた考えをした。

 本当にどうすれば良いのだろうか。

 宣撫工作のための担当者に護衛兵を付けてもダメ、護衛兵を付けなければもっとダメと言われては、自分達にとって選択の余地が無い話になる。

 このような泥沼の状況を打破する方法となると、やはり蒋介石等が主張するように一部の住民の強制移住しか方法が無いのだろうか。


 マッカーサー将軍以下の米国人に言わせれば、中国本土の一部の住民の満州への強制移動は、いわゆる西部開拓時代に行われたインディアン移住と同様にやむを得ないどころか、中国いや世界平和のために必要な当然の行動だという。

 その言葉の裏に、日本人も含めた有色人種差別の感情を感じてしまうのは、私の考え過ぎだろうか。


 しかし、他に方法が無い以上は最終的解決の手段として、中国本土の住民の一部について満州への強制移住を行うしかないのかもしれない。

 会津人の自分としては斗南藩に会津藩士が強制移住を強いられた過去を思い起こさせることで、どうにも気の乗らない話なのだが。

 海兵隊士官として第一次世界大戦の際に戦死した小中学校の同級生が生きていたら、どう思うだろうか。

 

 自分の出世の為に妊娠した幼馴染の婚約者を捨てて上官の娘と結婚した、とその同級生を単純に思っていたが、段々と裏が自分には分かって自分のしたことを悔いる羽目になった。

 同じようなことを今、自分はしているのではないだろうか。

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