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第3章ー4

 1941年1月以降同年5月になっても、日本の中国派遣軍の基本方針は変わってはいなかった。

 ひたすら占領地(中国本土沿岸部)の確保に務め、それ以上の攻勢は行わず、日米の航空隊の戦略爆撃の効果に共産中国政府が音を上げるのを待つというものである。

 日米の航空隊が戦略爆撃を繰り返すことにより、共産中国軍の兵の量はともかく、(装備等を含めた)質は低下する一方であり、守勢を維持する限り、日本軍の兵士が被る損害は充分に耐えられる程度で済むと岡村寧次総司令官以下、中国派遣軍司令部の面々は考えていた。


 問題は、それ以上の国家戦略レベルにあった。

 即ち中国本土の住民の民心を、日米寄り、蒋介石率いる中国(満州国)政府寄りにして、蒋介石率いる中国(満州国)政府を安定的な中国政府にすることである。

 それができないと日米はいつまでも中国本土介入を止められない。

 それができないままで日米が中国本土から全面撤退しても問題は無い、何故なら共産中国には日米本土を攻撃する軍事力を全く持っていないのだから、という指摘があるかもしれないが。


 1941年5月現在は確かに共産中国にはそれだけの軍事力は無い。

 だが、この時点で世界全体では既に1億人を超えているという、ここまでの戦死者数(戦争によって生じた餓死や疫病死等、全ての死者を含む数字ではあるが)を出しており、中国本土だけで8000万人とも、9000万人とも連合国側の各国軍情報部でさえ判断せざるを得ないだけの戦死者が出ているのだ。

 そんな中で反日米宣伝を繰り返す共産中国が中国本土を統治するのを、日米両国政府が看過していては将来の禍根になるのは必至であると、一刻も早く第二次世界大戦を集結させたいと望む(相対的にだが)宥和的な米内光政首相率いる日本政府でさえ考えざるを得なかったのである。


(例えとして余り良くないと私自身が思いますが。

 反米で米国に対するテロを含む武力攻撃を専ら実行している外国政府に対して米国政府が宥和的に対処できるのかというのと同じ問題です。

 更に既に米国政府自身がその外国政府に武力行使という最終的解決手段を行っている状況なのです。

 ここまでこじれてしまった以上、米国政府としては容易に手を引くことはできません。)


 この頃の日本政府の考えについて、この当時は外相を務めていた吉田茂は、第二世界大戦終結後に

「本当に外務省の大先輩である幣原元外相の長年の考えに、内心ではこの頃は私自身も同意せざるを得ませんでした。絶対に中国と戦争をしてはいかんと、幣原元外相から私が奉天総領事をやっていた頃に面と向かって言われたことさえあります。その時、私は中国にガンと一発食らわしたら黙りますよ、と傲岸不遜にもすぐに言い返しました。幣原元外相は私と比べて紳士なので、それで黙ると思ったら、この時だけは色を成して怒られまして、義和団事件や五四運動をきちんと見ないといかん、中国は心臓が幾つもある人間と同じだ、一旦、日中が本格戦争になったらすぐには決して終わらない、とまで言われました。この頃は、ああ大先輩の言われたことは本当だった、日本はとんでもない泥沼に踏み込んでしまった、と後悔しきりの有様でした」

 とまで語っている。


 この底なしの泥沼から何とか抜け出さねばならない。

 この当時の米内首相率いる日本政府はそう考えていた。

 そのために努力するように陸軍省、参謀本部を通じて、中国派遣軍に対して指示を下していた。

 だが、岡村将軍以下の中国派遣軍司令部がいかに知恵を絞ろうとも、どうにも現有戦力では中国奥地への侵攻作戦を展開することは無理であり、まずは極東ソ連軍を叩いてその戦力を転用する必要があった。

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