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幕間1-2

 その頃、土方千恵子は横浜駅前の洋食店で、村山幸恵と待ち合わせをしていた。

 千恵子が伯父と顔を合わせたくなかったのは本当だが、その一方で2人の異母弟、岸総司について幸恵に顔を合わせて相談したいこともできていたのだ。

 幸恵は電話連絡を受けて、横須賀から横浜まで出てきてくれた。


「総司のことで相談したいことって、何。総司が戦場で重傷でも負ったの」

 幸恵は洋食店に入り、千恵子の顔を見るなり言った。

 幸恵は千恵子と異なり、公式には総司の異母姉ではない。

 それ故に総司の身に何かあっても、幸恵の所には連絡が届かない。

 電話では千恵子は単に総司のことで相談したいとしか言わなかった。

 幸恵は総司の身に何が起きたのか、不安でならなかった。

「ええ、総司に女ができたらしいんです」

 千恵子はそう言った。


 幸恵はあっけに取られる想いがした。

 総司は、半年余り前に難産の末に妻を亡くしている。

 幸恵や千恵子にすれば、甥になる岸優が無事に生まれ育っていることがせめてもの救いだったが、とはいえ、妻の一周忌も来ない内に不謹慎だ、という感情が千恵子に起こるのは確かだが、わざわざ横須賀から私を呼び出し、顔を合わせて相談したいことだろうか。

 幸恵の感情を気にする余裕も無いらしく、千恵子は顔を合わせて早々に総司の攻撃をしそうな雰囲気だ。

 幸恵は千恵子と食事をして落ち着かせつつ、話をしようと考え、千恵子をそれとなくその方向に誘導して何とか成功した。


「ともかく総司が欧州で女を作るなんて。あんなに釘を刺していたのに」

 一通りの食事を済ませて食後のコーヒーが出てきたのだが、その香りを楽しむ余裕も無いようで、コーヒーを前にして千恵子は愚痴っていた。

 幸恵は顔に出さないようにしつつ、心の中で思った。

 本当に千恵子と総司は姉弟と言うより恋人同士のようだ。


 もっとも幸恵自身、千恵子と総司がそういう関係だとは思ってもいない。

 千恵子にしても勇という夫がいる身であり、理性は人並み以上にある。

 だが、その一方で幸恵は(姉弟と知らずに)総司とは3歳か4歳の頃からの幼馴染でしょっちゅう遊んだことから総司のことは熟知している。

 更に千恵子とも総司を介して13歳頃から知り合いになり、遂には自分が総司や千恵子の異母姉だと知った身の上だった。


 そして、これまでの経緯から千恵子と総司の関係について、そう思うように幸恵はなっていた。

 幸恵の知る限り、千恵子と総司がお互いを異母姉弟と知ったのは(幸恵にとっても)実父の七回忌の時だったらしい。

 それ以前の三回忌等でも2人は顔を合わせてはいるらしいが、お互いに幼すぎて記憶にないとのことだ。

 七回忌の後、2人はずっと会わなかったのだが、十三回忌の時に再会して、それから2人は(お互いの母親は嫌がったらしいが)文通を始めて時々逢うようになり、という感じで姉弟の絆を深めたと幸恵は2人から聞いている。


 そんなふうに姉弟とはいえ、成長してからお互いに知るようになったせいか、千恵子と総司が2人でいるときは、傍から見ても姉弟が共にいるというより、恋人同士が共にいるようだと幸恵は見ていたし、2人の関係をよく知る人も同意する有様だった。


 幸恵は千恵子の愚痴を聞き流しながら思った。

 全く第二次世界大戦の最中なのに、千恵子にとっては夫の生死よりも弟の女性問題の方が大事のように思えてくる。

 確かに総司が妻を亡くして半年余りで別の女性と付き合うのは褒められた話ではないが、千恵子がそこまで愚痴ることはないではないか。

 ひょっとして、幸恵は想いを巡らせた。

 千恵子は自覚していないのかもしれないが、要するに自分の目の届かないところで、総司が彼女を作るのが我慢できないのかも。

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