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第2章ー35

 そんな動きがパリであったこと等、最前線で戦う兵士達には分からないままだった。


「何とか自分達もエルベ河のほとりに立つことができたな」

 土方勇中尉は、エルベ河の流れを目にして呟いていた。

 4月末にようやく補充と再編制を完結した日本海兵隊の面々は、エルベ河のほとりに立って、ベルリンやプラハと言ったドイツ東部やチェコを目指すことが出来るようになっていたのだ。


 土方中尉自身は、2月に独中央軍集団が実行した日本海兵隊を包囲殲滅しようとした作戦について、最終的には上手く切り抜けられたと3月初め頃は思い込んでおり、周囲も同様だと考えていた。

 だが。


 義弟になる岸総司大尉からの忠告を受け、あらためて周囲を見渡して下士官兵の士気を見て、土方中尉は愕然とする想いがしてしまった。

 損害を受けて、大量の死傷者を出したこともあり、下士官兵の士気が本当に低下してしまっている。

 岸大尉の言う通り、このままではとんでもない事態が起こりかねない。

 土方中尉は、指揮下にある小隊員達、更にその周囲の下士官兵とも胸襟を開いて語り合い、士気の回復に努めることになり、日本からの補充、再編制を受けたこともあって、4月に入って、ようやく最前線に戻れるだけの士気を自分達、そして周囲の面々は回復したという訳だった。


「それにしても、これからどうなるのだろう」

 土方中尉は、周囲に誰もいないことを確認しながら、独り言を呟いた。


 先日、デンマークに駐屯していた独軍が無条件降伏を受け入れ、デンマークが完全に解放されたらしい。

 ユトランド半島には、英軍を中心とする連合国軍が侵攻し、更にデンマークの首都コペンハーゲンがあるシェラン島には米海兵隊1個師団が上陸作戦を展開したのだ。

 既に空と海からも封鎖されていて、独本土から孤立状態にあったデンマークに駐屯している独軍は、デンマークの住民からの敵意もあり、連合国軍の侵攻に対して、形ばかりの抗戦をした末に無条件降伏を受け入れたとのことだ。

 最早、バルト海への門は連合国軍に完全に開かれたといえる。

 今やバルト海沿岸への上陸作戦を連合国軍は展開することさえも可能な状況になった。


 この後だが、恐らく自分達はベルリン攻略に向かうことになるのだろう。

 そして、ベルリン攻略は上手く行けば7月に、悪くとも9月には果たせるのではないか。

 その自分の想いを援けるかのように、伊を始めとする中東欧諸国が、火事場泥棒的に勝ち馬に乗ろうと連合国側で参戦するのではないか、という(希望的観測が多々混じった)声が、現場の将兵の間から聞こえてくる。

 それによって、プラハやウィーンといった未だに独が確保している中欧の主要な都市も、連合国側の手に今年中には悪くとも落ち、独全土が連合国軍により占領されるのではないか、と自分や周囲は想っている。

 では、それで第二次世界大戦は終わるのか。


「いや、それだけでは第二次世界大戦は終わらない」

 土方中尉は自分の考えを整理するためもあり、敢えて独り言を更に呟いた。

 まだ、ソ連と共産中国が残っているのだ。

 過去の歴史を見る限り、ソ連も共産中国も粘り強く抗戦し、ほぼ全土が制圧されるまで、戦争を止めようとはしないのではないか。


 未だにソ連と共産中国(厳密にいうと、この第二次世界大戦に突入して以来、米英仏等はいわゆる共産中国を否認し、蒋介石政権を中国全土の正統な政権と認めたので、連合国軍と交戦しているのは独ソと(独の保護国)スロヴァキアのみになるが)は、連合国軍の講和の呼びかけを断固として拒絶している。

 もっとも、講和と言っても無条件降伏の受け入れなのだから。

「平和は遠そうだな」

 土方中尉はそんな考えに沈まざるを得なかった。

 これで、第2章は終わりです。

 次から戦場を離れた「四姉弟」がメインで、1941年5月時点の世界情勢を交えた話の幕間が5話続きます。

 その後、対ソ、共産中国を相手にする第3章になります。


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