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第2章ー32

 そういった英仏軍の奮戦を横目に見ながら、日本海兵隊(及び米第三軍)は、3月中は補充等に努める羽目になっていた。

 2月の独中央軍集団との死闘は、それだけの損耗を日本海兵隊に強いていた。


「辛いなあ」

 土方歳一大佐は、溜息が出る想いが3月末のある日にしていた。

 石原莞爾参謀長に至っては完全に不機嫌になっており、とばっちりを受けないように、周囲の士官の多くがそっと石原参謀長の目に入らないように逃げている有様だった。

 先程、英仏米日等の軍司令部の協議の結果、4月後半に行われるデンマーク解放作戦の一環でのコペンハーゲン奪還作戦には米海兵隊が投入されることが決まった、という連絡が欧州総軍司令部に入ったのだ。

 この作戦には、是非とも日本海兵隊を投入されたい、と欧州総軍司令部は希望を出していたのだが。


 2月の攻勢で損害を被っている日本海兵隊は補充と再編制を優先すべきであり、敵前上陸という大損害の危険が高い作戦への投入は止めるべきだ、と英仏米等に協議の結果、押し止められてしまったのだ。

 それに、と土方大佐は想いを巡らせた。

 英仏米としては、米海兵隊に敵前上陸作戦の実戦経験を積ませたいのだろう。

 日本海兵隊は、中国内戦介入時等において中国本土への師団規模以上での上陸作戦を何度も経験しており、つい最近も独のノルウェー侵攻に対処するための逆上陸作戦を成功させている。

 一方、米海兵隊は。


 ペトロパブロフスク=カムチャッキー上陸作戦くらいしか、師団規模以上での上陸作戦を米海兵隊は経験していない。

(もっとも、米海兵隊が師団編制を執るようになったのは、第二次世界大戦に突入してからなので、当たり前の話なのだが。)

 そして、更にソ連本土侵攻作戦を考えるならば。


 土方大佐は更に考えを進めた。

 バルト海なり、黒海なりで連合国側がソ連本土侵攻のために上陸作戦を展開することがあることは充分に考えられることだ。

 何故なら西方正面からのみの攻勢をソ連に行うことは、ナポレオン1世のロシア遠征の二の舞になるのが目に見えているからだ。

 そう言ったことを考えると、上陸作戦を伴う側面からの攻撃は必須の存在になる。

 そして、その場合には上陸作戦の経験を積んだ部隊は貴重な存在になる。

 そうしたことから考えていくならば。

 渋々ながら、コペンハーゲン奪還作戦には米海兵隊を投入するという英仏米の主張は正しい、と土方大佐としては考えざるを得なかった。


 実際、日本海兵隊の前線部隊の将兵、いわゆる現場レベルではこのコペンハーゲン奪還作戦に日本海兵隊は投入されない、という決定は(ひそひそレベルの話だが)歓迎される話だった。

 2月の大損害の補充を受け、部隊としての再訓練を行い、ということを考えると、やはり5月になってから最前線に復帰しての攻勢参加が望ましいというのが現場の空気だったのだ。

 土方大佐がそんな想いをしながら、欧州総軍司令部にいる頃、第3海兵師団にいる岸総司大尉には、その現場の空気が読めていた。

 第3海兵師団司令部付きの大尉参謀として、師団隷下の部隊の査閲等を行っているのだが、微妙に現場の空気が悪くなっているのだ。

 無理もない、と岸大尉は想わざるを得なかった。

 実の祖父にして養父の思い出話そのものではないか。


 幾らサムライと周囲から称賛の目を向けられ、実際に言葉で称えられても所詮は欧州の事なのだ。

 何故に欧州で血を流し、命を失わねばならないのか、という想いを現場がするのはやむを得ない。

 それでも勝っていれば、まだ勝ち戦の空気等がその想いを鎮めてくれる。

 だが、戦に負けてしまっては負の想いが噴き出してしまう。

 父が生きていればどう想っているだろう、岸大尉はそうも思った。

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