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第1章ー4

 1941年1月28日、林忠崇侯爵の国葬が執り行われていた。


 林侯爵の薨去の報が国内外に伝わるに伴い、様々な栄典が国内外から送られていた。

 国内では正一位に叙す、という決定が行われた。

 国外からも様々な栄典が送られていたが、土方千恵子にとって、最も印象深かったのはフランスからフランス陸軍元帥に林侯爵を叙するという決定が、フランス政府から行われたことだった。


 林侯爵は、日本海軍の元帥海軍大将という立場にある。

 それなのに、林侯爵をフランス陸軍元帥に叙するというのはどうなのか、と千恵子は想った。

 だが、林侯爵が海戦で功績を挙げたことは無く、陸戦でのみ功績を挙げたのが厳然たる事実としてある。

 そして、幕末以来のフランス陸軍と日本海兵隊のかかわりを考えるならば。

 林侯爵が、(千恵子の知る限りだが)ナポレオン1世がワルシャワ公国のポニャトフスキー大公をフランス軍元帥に叙して以来の外国人のフランス軍元帥に叙せらるのもおかしくない、とも千恵子は考えた。

(細かいことを言い出すと、ワルシャワ公国はフランスのいわゆる属国、衛星国であるから、事情は違うという話になるが。)


 だが、その一方で、千恵子は別のことにも想いを馳せざるを得なかった。

 この日、1月28日にフランス軍の駐屯地では、各地の正午を期してフランス軍元帥が国葬に処せられたのに準じて、林侯爵に黙祷を捧げる旨の通達がフランス政府から出されたとのことだった。

 今は第二次世界大戦の真っ只中にある。

 かつての第一次世界大戦の際に英日米等と共闘したことをフランス国民等に思い起こさせ、第二次世界大戦を勝利に導こうというフランス政府の思惑から、林侯爵はフランス陸軍元帥に叙せられたのでは、と千恵子は考えざるを得なかった。


 そんな様々な想いを巡らせつつ、千恵子は林侯爵の国葬に参列していた。

 ちなみに千恵子の居場所は、葬儀委員長を務める土方勇志伯爵のすぐ傍だった。

 これにはある意味では当然の事情があった。


 土方伯爵は言うまでもなく現役の軍人ではなかった。

 そのために副官等はいなかった。

 また、貴族院議員を務めていたとはいえ、(土方伯爵の我が儘から)公設秘書もいなかった。

 勿論、葬儀委員長に土方伯爵が任命されたことから、海兵本部や宮内省からそれなりの人物が土方伯爵の下に派遣されてはいる。

 とは言え、急に派遣された人物が土方伯爵の意を速やかに汲んで動くのはさすがに難しい。

 そのために土方伯爵の私設秘書の役割をここ最近は事実上務めていた千恵子が、この場においても秘書の役を務める羽目になり、土方伯爵の傍にいることになったのである。

 だが、このことは要らぬ憶測も呼んでいた。


 千恵子の耳に風に乗って、無遠慮な噂話が入っていた。

「土方伯爵の傍にいる若い女性は誰?」

「孫の嫁らしい」

「孫の嫁とは言え、何であんな傍近くに」

「知らんのか。実は林侯爵の血縁らしいぞ。だが、林侯爵家の事情から認知されなかったとか」

「華族ともなれば色々と裏があるということか」


 千恵子は、その噂話が聞こえなかったふりをした。

 小さい頃から陰口を叩かれるのに千恵子は慣れている。

 千恵子の対処法は、聞こえなかったふりをして胸を張り堂々とすることだった。


(皮肉なことにそれを千恵子に教えたのは、母二人だった。

 嫡母の岸忠子は、千恵子を何かというと嫌悪して陰口を叩いた。

 実母の篠田りつは、それに対し千恵子に聞こえなかったふりをして胸を張り堂々としなさいと教えた。

 そうしたことから、千恵子はそうした態度を取り慣れていたのである。)


 千恵子は様々な想いを自分自身が巡らせつつ、葬儀委員長の義祖父の土方伯爵の助けをして、林侯爵の国葬に参列していた。

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