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第2章ー27

 実際、クライスト将軍はそれなりの名将として、第1装甲軍が仏第1機甲軍にブレンハイムで会戦を挑むことにかなり事前から躊躇したらしい。


 第1装甲軍は民間からの燃料徴発という非常手段まで講じて、ブレンハイムまで進軍したが、それでも多くの独軍の車両が燃料不足、整備不良から仏第1機甲軍との会戦に際して充分な活動ができなかった、ということがこの会戦に参加して、第二次世界大戦後まで生き残った独軍の将兵の多くの回想の中で述べられている。

 更にその回想によれば、仏軍の主力戦車であるルノー41戦車に対して、独軍の戦車のほとんどが劣勢であることが、会戦以前に独軍の将兵に知れ渡っており、そのことにより独軍の将兵の士気はかなり低下していたともいう。


 クライスト将軍は決して愚将ではない。

 だから、第1装甲軍の内実からして、本音としては仏軍に攻勢を取らせて、その上で逆撃を加えることでの勝利を図りたいと考えていた。

 だが、実際には自ら愚策とする仏軍への攻勢を決断せねばならない状況に陥りつつあった。


 ブレンハイムに仏第1機甲軍が腰を据えつつある。

 そして、仏第1機甲軍が開けた独軍の防衛線から仏軍の増援(歩兵師団が主力だが)が雪崩込みつつあり、このままいけば独南方軍集団は、仏軍によってベルリンやウィーンといった後方との連絡線を完全切断され、包囲殲滅の憂き目に遭いかねない。

 ナポレオン戦争時のウルムの屈辱(この時、墺軍はほぼ戦わずして仏軍に降伏する羽目になった)を味わうくらいなら、一か八かの賭けに出た方が。


 クライスト将軍自身が、かなり分の悪い賭けということが分かってはいた。

 だが、戦略的状況から第1装甲軍は破滅的な攻勢をブレンハイムで執らざるを得なかった。


「サムライが言うところの野鴨撃ちだな」

 アラン・ダヴー大尉は憮然とした表情で言っていた。

「米軍ならば七面鳥撃ちと言うところでしょうね」

 ルイ・モニエール少尉が合いの手を入れた。


 ブレンハイム近郊の開けた地形での突撃を第1装甲軍は余儀なくされていた。

 準備万端とは言わないが、それなりに仏軍は独軍の攻撃を予期した防御陣地を構えている。

 戦車を伴う以上は、どうしても独軍が攻撃に使える地形は限られてくる。

 かと言って、戦車を伴わない歩兵のみの独軍の攻撃が効果を挙げられるかというと。

 独軍の攻撃は波のように繰り返されたが、待ち受けている仏軍の防御の前に悉く跳ね返されていた。


 そして、ある程度、独軍が消耗したと判断したド=ゴール将軍は、仏第1機甲軍に総反撃を下令した。

「こりゃあ、かつてのブレンハイム以上の勝利を我が仏軍は収められそうだな」

 ダヴー大尉はそう言って、部下を率いて攻撃を開始した。

「そうなったら、独のみならず、英まで驚愕する勝利ですな。本当に気持ちがいい」

 その言葉を聞いたモニエール少尉は言った。


「はは。確かに自分の名前的にも気持ちがいいが」

 笑いながらダヴー大尉は言った後で真顔になり、モニエール少尉に続けて言った。

「今や英は同盟国だ。言葉に気を付けろ」

「分かりました。でも、仏人の多くが自分に共感すると思いますよ」

「まあな」

 ダヴー大尉とモニエール少尉は、そうやり取りをした。

 その言葉を聞いた仏人の面々も笑みを浮かべた。

 英仏の対立は長年にわたるものだ、英にかつて敗北した地で今度は勝つ、気分がいい話ではないか。


 2月16日の夕刻、ブレンハイムにおける独第1装甲軍と仏第1機甲軍の会戦は独軍の大敗という形で終結しつつあった。

 ド=ゴール将軍が仏陸軍総司令部に

「この会戦の結果、バイエルン地方は仏軍の完全占領下に3月中には置かれるであろう」

 との捷報を伝える程の大勝利を仏軍は収めたのだ。

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