第2章ー25
実際、この放胆極まりない仏第1機甲軍の前進は、独軍南方軍集団に大混乱を巻き起こしていた。
ルントシュテット将軍の率いる独軍南方軍集団司令部は、まず仏第1機甲軍の猛攻が北方からやってきたことに虚を衝かれた。
「まさか、仏第1機甲軍が南進してくるとは」
ルントシュテット将軍自ら、そう驚愕したという。
更に仏第1機甲軍の装備である。
仏軍に新型戦車が投入されている、零式重戦車と同程度の戦車の可能性もある、そこまでは独国防軍情報部も把握していた。
だが、全ての戦車が新型戦車に更新されているとは。
連合軍に及ばないとはいえ、独空軍もそれなりの夜間爆撃を行ったり、また、仏共産党や仏人民党支持者による破壊工作等が行われたりしている。
そういった状況から、新型戦車が量産化されているとしても、少数の投入に止まると推測されていた。
ところが実際には、いきなり900両近い新型戦車を仏第1機甲軍は装備していたのである。
「ありえない。どこにそれだけの底力が仏にあったのだ」
最初に仏第1機甲軍とぶつかった第6軍司令官のライヘナウ将軍は半恐慌状態で抗戦することになった。
(勿論、タネを明かせば簡単な話で。
整備等の関係もあり、全てのルノー41戦車は仏第1機甲軍に回されており、それ以外の仏軍はルノー41戦車をこの頃は装備していなかった。
更に軍用機産業をルノー41戦車の量産に回すという非常手段まで講じている。
こうしたことから900両近いルノー41戦車が、いきなり集団で独軍の目の前に現れたのである。)
そして、仏第1機甲軍が電撃戦の準備等をしており、機甲軍の扱いに長けたド=ゴール将軍がそれを率いている。
こうした事情も相まって、仏第1機甲軍は独第6軍の防衛線を独軍のお株を奪う電撃戦で突破することに成功していた。
この時、ウルム近郊にクライスト将軍率いる第1装甲軍は主に集結してシュヴァルツヴァルト方面からの仏軍の攻勢に当初の計画通りに備えていたが、第6軍の防衛線が崩壊したのを受け、急きょ救援に向かうことになった。
だが、その内実はというとお寒いものだった。
「これが第1装甲軍か。そう呼べと言われているから呼んでいるようなものだな」
クライスト将軍は溜息を吐いた。
定数上は戦車約800両を所有し、5個装甲師団、3個自動車化歩兵師団を基幹とする独軍南方軍集団の機動防御の切り札といえる第1装甲軍だった。
だが、その実態は。
2号戦車が約800両の戦車の半数近くを占めている。
3号戦車や4号戦車は全体の3割と言ったところ、残りは38(t)戦車が最も真っ当で、1号戦車や突撃砲までかき集めて定数を満たしている有様だった。
これで、900両近いルノー41戦車を保有する仏第1機甲軍とぶつかって勝てるのだろうか。
更に他の側面を見るともっと事情が悪くなる。
まず、クライスト将軍にとって頭が痛いのが燃料の欠乏だった。
バイエルン地方全体で見れば、燃料が無い訳ではない。
だが、鉄道や内陸水運といった輸送網がズタズタでは。
第1装甲軍に加え、南方軍集団が命令を下しても、手持ちの燃料しか燃料が無く、それ以上の燃料が麾下にある部隊に届かないことが稀ではなかった。
「燃料不足で動けない戦車は固定砲台としてしか使えない」
クライスト将軍は半ば自嘲して言った。
「それでも行くしかないのでしょう」
第1装甲軍の作戦参謀が言った。
「そうだ。第1装甲軍はバイエルン地方を護るために仏第1機甲軍を迎撃して勝利を収めに行くしかない」
クライスト将軍は第1装甲軍司令部の幕僚を集めた場で言った。
「最悪の場合、民間から燃料を奪ってでも行く。祖国を護るために」
クライスト将軍は決然と続けて言った。
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