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第1章ー3

 土方千恵子にしても、実際の戦場を知らない世代である。

 だが、まだ戊辰戦争を実地に見分した人から、直接に話を聞くことが出来たし、質問して答えを貰うことが千恵子にはできた。

 そういった千恵子の目からすれば、昨今の戦場を知らず、また、戦場の経験者から話を聞いていない人の戦争に対する主張は危うさを覚えて仕方のないものだった。


 例えば、戦場においては、多くの非戦闘員でさえも時として意図せずに戦禍の被害に遭うのに、それが分からないままに戦争への主張をしている人がいる気がして、千恵子にはならないのだ。

 更に千恵子自身も自分の考えすぎではないか、と考えてはいるのだが、第二次世界大戦を終わらせるためには、ソ連や中国の共産党員やその関係者は絶滅させるしかない、という主張までもする人とかを見聞きすると、本当に実地にそうしないといけないと思っているのでは、それによってどんな事態が生じるかまでその人は考えて言っているのだろうか、と千恵子は懸念を覚えてしまうのだ。


 千恵子がそんな想いを巡らせるうちに、林忠崇侯爵と土方勇志伯爵の会話は、一時的に終わっていた。

「それでは、わしに万が一のことがあったら、お前に一報する。その後は、適宜、お前が最善と考える方法で関係各所に連絡を取ってくれ」

「分かりました。私が最善と考える方策を講じます」

 林侯爵は、そう土方伯爵に依頼し、土方伯爵はそれに答えた。


 他にも懐旧談も含めて色々なことを遺言として、林侯爵は語り、土方伯爵と千恵子は聞き役を務めた。

 そういった話の中で千恵子が特に印象に遺った話があった。

 林侯爵が、こういったのだ。

「千恵子、お前やその兄弟をわしは曾孫のように思っている」

 実際、年齢から言えば、千恵子やその兄弟は林侯爵の曾孫でもおかしくはない。

 だが、わざわざ言うということは。

 千恵子の頭の中では疑念が浮かんだ。

 まさか、千恵子の父は、林侯爵の隠れた孫ではないのか。


 戊辰戦争時に会津の地と林侯爵は縁があった。

 千恵子の兄弟と言えるのは、全て異母姉弟で共通の親は父だけだ。

 そして、その父は会津出身で第一次世界大戦で戦死している。

 千恵子の実父の両親は戸籍上はきれいなものだが、いわゆる「藁の上の養子」なら戸籍上では真実が全く分からない。

 父の両親のどちらかが、林侯爵の隠し子で「藁の上の養子」となっていたのでは。

 千恵子は考えを進めた。


 本当に夫、土方勇の想いを叶えたいだけの善意で、林侯爵は動いたのだろうか。

 林侯爵は、自分、千恵子と夫の結婚に際して、岸提督や柴提督の顔を完全に潰しかねない危険を冒し、千恵子の代父まで務めるという好意を示している。

 父は最期まで自分、千恵子のことを知らずじまいだった。

 それと似たような感じで、父が死んで篠田家と岸家の間で騒動が起こるまで、林侯爵は父が自分の孫というのを知らなかったのでは。

 それなら、幸恵姉さんに対する北白川宮の好意も説明がつく。

 裏で真実を知った林侯爵が動いたのだ。


 だが、永遠の闇の世界になる話だ。

 林侯爵が公表するつもりなら、既に公表されている筈。

 頭の良すぎる千恵子は、そこまで考えて心の中で曽お祖父さんと林侯爵を呼んで涙を零した。


 林ミツからの林侯爵の薨去を伝える電話連絡に対応しつつ、千恵子はあの時の事を思い出し、更に想いを巡らせてしまった。

 電話のやり取りが済み次第、千恵子は義祖父の土方伯爵に林侯爵の薨去の報を伝えた。

 土方伯爵は、しばらく瞑目して林侯爵の薨去を悼んだ後、千恵子に手伝わせて海兵本部や宮内省等、関係各所に林侯爵の薨去を伝えた。


 そして、林侯爵の国葬は1941年1月28日に行われること、葬儀委員長は土方伯爵が務めることが決まった。

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