第2章ー16
「ガッデム、新しい得物を使って親友を助けに行くはずが、待ち伏せしていた悪漢に殴られてしまった。この借りは数倍にして返してやる」
日本海兵隊を救援するために向かう米第3軍。
その最先鋒を務める第4機甲師団司令部から、50ミリ対戦車砲とパンツァーファウストを独軍が投入しており、自慢の筈のM3中戦車に損害が出ているという第一報を聞かされた時に、第3軍司令官のパットン将軍は上記のように喚いたという。
そして、救援作戦発動の当初、パットン将軍はすぐに日本海兵隊を助けられると楽観視していたが、第4機甲師団以外からも麾下にある諸部隊から続々と同様の報告を受け、更に独軍の抵抗規模の激しさからして、これは容易ならざる事態だ、と徐々に深刻に考えるようになった。
実際、米軍が総力を挙げてもこの時に投入できるのは16個師団に過ぎず、日本海兵隊と併せても22個師団で、この反攻に投入されている独軍と兵力を比較した場合にそう差はない。
更に米軍の経験不足を考えるならば、容易ならざる事態と言わざるを得なかった。
米軍による救援作戦発動から2日後、後方にいるアイゼンハワー将軍やレヴィンスキー将軍にも、日本海兵隊が窮地に陥ったのが分かるようになってきた。
パットン将軍率いる米第3軍は、懸命に独軍が作った鉄の包囲網を打ち破ろうとしているが、頼みのM3中戦車は独軍の戦車部隊と互角以上に戦うものの独軍の対戦車戦術に苦戦を強いられている。
ブラッドレー将軍が率いる米第1軍もパットン将軍を懸命に支援しているが、効果が挙がっていない。
日本海兵隊は、さすがに精鋭だけあって容易に崩れてはいないが、そうは言っても独軍の攻勢の前に徐々に圧迫されつつある。
アイゼンハワー将軍は、上記のような状況に鑑み、レヴィンスキー将軍に知恵を借りることにして、電話で直接に話し合っていた。
幸いなことにレヴィンスキー将軍は付け焼刃で英語を学んでおり、英語で話し合うことが出来た。
「日本海兵隊を一旦、後退させるべきだと考えますが、レヴィンスキー将軍はどのように思われますか」
「それが賢明な判断でしょうな」
アイゼンハワー将軍の問いかけに、打てば響くようにレヴィンスキー将軍は答えた。
「この際、一旦は日本海兵隊を包囲網から脱出させた後、再攻勢を展開することを考えるべきです」
レヴィンスキー将軍は、アイゼンハワー将軍を諄々と説得するかのように話した。
「協力して日本海兵隊に包囲網からの脱出を図るように説得しましょう。日本海兵隊が脱出した後に独軍に砲爆撃を加えて打撃を与え、再度の攻勢を図るべきです」
「そうすべきでしょうな」
「共同して日本海兵隊の救援脱出作戦を検討しませんか」
「そうしましょう」
レヴィンスキー将軍の言葉は、アイゼンハワー将軍を納得させた。
ポーランド軍と米軍が協同して総力を挙げて行う日本海兵隊救援作戦の発動準備が整うのには、作戦のすり合わせ等を日本海兵隊とも行う関係から独軍が攻勢を始めてから数えると10日が掛かる羽目になった。
パットン将軍は何とかして一刻も早く日本海兵隊を救援しようと命令無視の危険まで冒して逸ったが、アイゼンハワー将軍に最後にはこれ以上の行動は上官に対する抗命と受け取るとまで、半ば叱責されるように言われては矛を収めて、アイゼンハワー将軍の命令に従わざるを得なかった。
日本海兵隊上層部でも現状を深刻に考える者がその間に増えていた。
「アイゼンハワー将軍とレヴィンスキー将軍の言葉に従い、このフルダ渓谷から一旦、撤退しよう」
北白川宮成久王提督は司令部の面々に図った。
「やむを得ないでしょうな」
当初は反対した石原莞爾提督も同意に至っていた。
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