第2章ー4
実際、他の南欧、東欧等の諸国は、今少し慎重に物事を見ていた。
1941年1月初め、トルコのイノニュ大統領とサイダム首相は半秘密裡に話し合いをしていた。
表向き二人は国内情勢についての話をしている筈だった。
だが、実際には第二次世界大戦にトルコをいつ参戦させるかについての話し合いを二人はしていた。
「ベルリン陥落後にソ連領への本格侵攻を英仏米日が行い出した時点で、我が国は参戦すべきと考えるが、私の考えをどう考える」
イノニュ大統領の問いかけに、サイダム首相は頷きながら言った。
「それが妥当なところではないでしょうか」
「ソ連とはかつては友好的な関係に一時はありましたが、所詮はロシア時代からソ連と我が国とは不倶戴天の仇と言って良い間柄です。かと言って、軽々に敵として戦争をしてよい相手ではない。英仏米日が本格的な侵攻をソ連領に対して始めてから、我が国は参戦すべきであると考えます」
サイダム首相はイノニュ大統領に言った。
「その辺りが妥当なところだろうな。それに他の近隣諸国の動きも気になる所だ」
イノニュ大統領が少し声を潜めて言った。
「東欧やイラン等の動きですな」
サイダム首相の言葉に、イノニュ大統領は大きく肯いた。
「イランのレザー・シャーの気持ちはよくわかる気がする。我が国も英国等の大国に翻弄されてきたからな。だからと言って、独ソ寄りの態度を取って英仏米日を敵視しては、英仏米日が激怒して当然だ」
「何れは鉄槌が下されるでしょうな。下手をするとイラン領内のクルド民族国家樹立を英仏米日は積極支援するかもしれません」
「さすがに、それはトルコ領内のクルド民族を刺激するので看過できないが。英仏米日に保障占領されるくらいはイランにとって良い薬と言ったところだろうな」
二人は不穏な会話をした。
「東欧諸国の動きはもっと複雑だ。あの国が敵に回るなら、我が国は味方に付くという国がゴロゴロある」
「ルーマニアとハンガリーは宿敵、ルーマニアとブルガリアもいい所ですか。ギリシャとイタリアもアルバニア問題から同様と言ったところでしょうな。細かく言えば、表向きは平穏とはいえユーゴスラビアの国内事情も内実では不穏極まりない。他にも東欧諸国の動きは複雑だ。下手に各国が動くことはできません」
イノニュ大統領とサイダム首相は不穏な会話を続けた。
「ともかく当面の間は、我が国は静観を続けるしかあるまい」
イノニュ大統領は半ば嘆くように言い、サイダム首相は無言で肯くことでそれに同意した。
同じ頃、スペインでの閣議でも似たような会話が交わされていた。
フランコ総統は表向きは渋い顔をしていたが、内心では笑いを隠せなかった。
「英仏米日政府の一部から、熱烈な共和派支持者を何とかするようにと言ってきている。我が国に対する内政干渉もいいところだがやむを得ない。西サハラに彼らを追放しよう」
「確かに仕方ありません。我が国を愛する余りに取った行動とはいえ、愛国主義者が常に愛国者ではない、いや、売国奴や非国民のことが多い。自分の言動に責任を取ってもらいましょう」
閣僚の一人がフランコ総統に追従して発言し、他の面々も肯いた。
「また、我が国に参戦を促す依頼もあるが、我が国は先の内戦で疲弊しており、莫大な物資等の援助が無いと参戦どころではない。英仏米日からの援助を待って参戦しよう。それでも1年は掛かるだろうが」
フランコ総統は更に言って、内心で想いを巡らせた。
内戦からの復興が我が国にとっては第一だ。
そのための国内安定のために反対派を粛清する。
現状ではとても参戦どころではない。
だが、何れは参戦しなければいけない時が来る。
その時には高く我が国を売りつけよう。
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