表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
120/120

エピローグー5

 そんなことを土方千恵子は思っていたが、和解の席の岸忠子の対応はあっさりしたものだった。

 いや、下手に口を開けば、却って自分が荒れると思ったのかもしれない。

「孫の優をよろしくお願いします」

「こちらこそ、伯母として優を大事にします」

 そうお互いに頭を下げただけで、二人の和解の席は事実上終わった。


 お互いに総司の顔を立て、和解の第一歩を踏み出す。

 それが、これまでの経緯から二人にとっては精一杯の行為だった。

 その後は、岸三郎と土方勇志が音頭を取り、皆で食事をして和解の席は終わった。

 岸三郎と土方勇志は長年の親友であり、いずれは和解を、とお互いに内心で思っていたのだ。


 和解の席が終わり、帰宅の途次で、千恵子は想いを巡らせた。

 こじれた国際関係もこのようなものなのかも。

 最初は深刻なものでなかった筈が、一度こじれてしまうと、とことんこじれてしまう。


 ベルリン陥落、独本土制圧を日本をはじめ、連合国側の各国国民は喜んでいるが、これだけでは第二次世界大戦はまだまだ終わらない。

 何しろ独でさえ、モスクワに亡命政権を樹立し、なお100万人以上の兵士を集めて、祖国奪還を叫んでいる有様なのだ。


 そして、言うまでもなくソ連と共産中国政府はまだまだ健在だった。

 共産中国は、国民の半数近く2億人以上が様々な要因から死んだという確度の高い情報が入っているが、それでさえ、共産中国政府や国民の抗戦意欲を高めるものであり、全員戦死か勝利か、を合言葉にして徹底抗戦を呼号し、まだまだ連合国との間で講和の糸口さえつかめていない。

 ソ連に至っては、極東部を失ったとはいえ、本土と言える欧州部はまだまだ手つかずだ。


 一方で、連合国側は、日本だけでも中国内戦介入以来、のべ200万人以上の戦死傷者を出し、兵士が徐々に不足しつつ、各国の国民の間では徐々に厭戦気分が高まりつつある。

 そのために、例えば、日本では、これまでは志願兵を募っていなかった台湾に対しても、志願兵を募ることができるように法律が制定され、台湾人の志願兵が十万人単位で募集されるようになっている。

 その代償として、第二次世界大戦終結後には、台湾において高度な地方自治(外交権と軍事権以外については、台湾人自身の自治)をほぼ認める自治州化が認められるという法律が制定されている。

 確かに、そのような代償が無くては、台湾人も兵として志願をしてこないだろう。


 また、かつてのナポレオン1世のロシア遠征の愚を繰り返さないように、少しでも兵や物資を増やそうと、これまで参戦していなかった中立諸国に対して、米英仏日等の主要な連合国は参戦を呼び掛けている。

 それに、第二次世界大戦後に大規模な宗教、民族紛争が起こるのでは、という懸念の声が連合国側の市民の間に徐々に高まりつつあるのを無視してまでも、ソ連や共産中国内の宗教、民族対立を大規模に扇動して、本格的な侵攻前にソ連や共産中国を崩壊させようという動きも連合国側の政府では高まっている。


 それに対抗して、ソ連や共産中国、民主ドイツ政府は連合国側の国民にいる共産主義者のみならず、社会主義者や民主主義者に対し、民主主義を護るために戦争を止めるような行動を起こすように訴えている。

 千恵子にしてみれば、ソ連や共産中国、民主ドイツといった政府に、民主主義を護れと訴えられる行為は片腹痛いどころの話ではないが、連合国側の一部の国民にしてみれば、いい加減に戦争を止めるべきだという想いも相まって、徐々に賛同する声が陰で広まっているらしい。


 千恵子は想った。

 夫や弟達には早く帰ってきてほしいが。

 この戦争はどのような形で終わるのだろうか。

 いや、本当に終わることがあるのだろうか。

 これで完結します。


 ご意見、ご感想をお待ちしています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ