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第4章ー35

 1941年9月初めのある日、日本の遣欧総軍司令部では、大事が一段落した後で、更なる大事が発生したような微妙な雰囲気に包まれていた。

 もっとも、その雰囲気はここ数日、ずっと司令部内で流れている雰囲気でもあった。


「スターリン率いるソ連政府は、公式にハイドリヒ新総統が率いる民主ドイツ政府を、ドイツの正統政府と認めるとのことです。言うまでもなく、共産中国政府も」

 土方歳一大佐は、日本本国からの連絡を、総司令官である北白川宮成久王大将に報告していた。

「スイス等の中立国の反応は」

「面従腹背といったところですね。民主ドイツが、国際法的な観点から言えば、ドイツの正統政府であるのは否定できない話ですから」

 北白川宮大将からの問いかけに、土方大佐はそう答えた。


「やはり、そうなるのか」

 参謀長である石原莞爾中将は、既に達観していたようで、そう乾いた口調で言った。

 土方大佐は、その言葉に肯いた。


 ベルリンは先日、最後の独軍の兵士が武器を置いたことにより、日米連合軍の完全制圧下に置かれた、といってもよい。

 そして、これによって、かつてヴェルサイユ条約によって独領と認められた地域どころか、第二次世界大戦勃発後に独ソの二か国協定によって独領となった旧ポーランド領を含む独領(言うまでもなくオーストリア併合やミュンヘン協定によって独領と認められた地域を含む)が、ほぼ全て連合国軍の軍政下に置かれたといってもよい。

 だから、この時点で対独戦争については、一方的に終結宣言を行えるレベルの勝利を連合国軍は収めたと言うことができる。

 だが。


 先日、ヒトラー総統によって、独政府の次の総統に正式に指名されたハイドリヒは、モスクワで民主ドイツ政府の樹立を宣言した。

 更に、ソ連領内等に脱出した独軍の軍人や公務員等は、ほぼ全員が民主ドイツ政府に忠誠を誓うことを表明しているらしい。

 実際、様々な観点から考える程、民主ドイツ政府が独の正統政府であることを否認することは、さしもの米英仏日等の各国政府と言えども否定するのは難しい。


 だからこそ、米英仏日等の各国政府は、ゲルデラー等、こちらに味方する独の政治家等を集めて、自由ドイツ政府(仮称)の樹立を急いで進めている。

 そして、占領下にあるドイツ領内で速やかに準備を整えて選挙を行い、この自由ドイツ政府に正統性を与えようと考えている。

 だが、これは諸刃の剣でもあった。


 ハイドリヒ率いる民主ドイツ政府は、ナチス党の党員もこの選挙に参加して、自由な選挙をドイツ領内で行うべきではないか、いや、ドイツ領内ではナチス以外の全ての政党が認められていなかった以上、それ以外の政党を結党させて、選挙に参加させるというのは、ドイツの民主主義を圧殺するものだ、という主張を行っている。


 かと言って、米英仏日等の各国政府は、そのような主張を認める訳には行かなかった。

 そんな主張を認めては、また、ナチスが独の政権を握る悪夢が生じてしまう。

 だから、いわゆる非ナチ化を各国政府は推進しており、ナチスの党員を戦争犯罪で摘発する例が多発し、独領内で行われる選挙へのナチス党の参加も拒んでいる。


 しかし、そのことは民主ドイツ政府に、連合国側の各国政府を攻撃する絶好の口実を与えている。

 自由ドイツ政府という名の傀儡政権を連合国はドイツに樹立し、ドイツ民族を永久に奴隷化しようとしている、自由か然らずんば死か、ドイツ民族の自由と民主主義を護る為に、ドイツ民族は今こそ立ち上がらねばならない。

 そう、ハイドリヒ新総統らは叫び、ドイツ民族の一部も呼応しているのだ。


 北白川宮大将ら、遣欧総軍司令部の面々は、将来を考えると昏い想いに囚われざるを得なかった。

 これで第4章は終わりです。

 次からエピローグになります。


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