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第4章ー32

 岸総司大尉は、渋い顔を基本的にしながら、ベルリン攻略任務にあたる羽目になった。

 勿論、頭の中では上層部がベストとは言わないまでも、ベターを尽くしてくれているのは理解している。

 だが、現実問題としては。

「厄介だ。市民を敵視しながら戦う市街戦等、悪夢に等しい」

 岸大尉は、そう呟きながら、指揮下にある海兵中隊を駆使して、ベルリンで市街戦へと突入することになったのである。

「さて、まずやるべきことは」

 岸大尉は、考えを巡らせた。


 川本泰三中尉にしてみれば、いきなりとんでもないことを上官である岸大尉に言われ、耳を疑った。

「士官全員は、階級章を外せ。すぐに外れないなら、剥ぎ取れ。師団長の了解は取った」

 本来からすれば、口答えどころか、抗命と取られかねない、と川本中尉自身も思ったが、それでも言わざるを得なかった。

「どうしてですか」


「市街戦では、どうしても混戦になり、狙撃兵による士官への狙撃が多発する。士官が狙撃されては、指揮系統が混乱し、どうしても不利になる。階級章を外すことで、士官かそうでないかの判断を困難にするのだ。それから、敬礼も先に気づいた者がやれ。階級が下の者が先にやるということをやっては、階級章を外した意味が無くなるからな」

 岸大尉は少し長めの説明をした。

 その説明を聞いた川本中尉を含む部下達は、その言葉の道理に唸らざるを得なかった。


 そして、7月25日、ベルリンでの市街戦は白熱化する一方になっていた。

 川本中尉は、息の抜けない状況で携帯糧食をかじって、部下と共に周囲を警戒していた。

 本音では、後方に下がって温かい食事をとりたい。

 だが、実際にはそんなことは夢物語だ。


 独軍は国民突撃隊と共闘して、自分達を迎え撃っている。

 米軍は戦車を盾役として先鋒に出し、独軍の守備隊を圧迫して、ベルリン攻略を容易にしようと試みているらしい。

 だが、自分の見る限り。


「あの爆発音。米軍の戦車がやられたらしいな」

「米軍の戦車もガソリンエンジンだからな。一度、火が付けばえらいことになる」

 何かが爆発した爆発音を自分と共に聞いた部下達が小声で会話している。

 自分も思わず大っぴらに肯きたくなる。

 全くの自分の憶測だが、あの音は米軍のM3中戦車が、独軍のパンツァーファウストの直撃を受けて、爆発炎上した音にほぼ間違いないだろう。


 ベルリンでの市街戦に突入した数日前には、自分達の戦車が無いことを半ば公然と愚痴りたかったが、今となっては戦車を投入しなくて正解だった気さえするのが恐ろしい現実だ。

 日本海兵隊の戦車はほぼ全部がワルシャワ解放に充てられたために、ベルリン攻略任務に充てられた戦車は無いと言っても過言ではない。

(なお、日本海兵隊が装備している一部の自走砲等はベルリン攻略に向けられており、日本海兵隊が装甲車両をベルリン攻略に全く向けなかったというのは誤謬である。)


 だが、自分の考える限りでは、これはこれで正解だったのではないか、と思えてくる。

 パンツァーファウストを使った簡易の対戦車用の罠の設置さえ、独軍(と国民突撃隊)は行って、ベルリンを全力で守ろうとしている。

 そのために米軍では大量の戦車が喪失するという事態が起こっているらしい。


 もっとも、ベルリン攻略に戦車を投入しないというのは、歩兵(海兵)同士の戦いを強いられるということでもあり、これはこれで日本海兵隊がベルリン市街戦で苦戦を強いられる原因ともなっている。

 岸大尉は、自分(川本中尉)やそれ以外の部下を巧みに指導して、ベルリンを一刻も早く陥落させようと悪戦苦闘しているが、中々に苦労しているようだ。


 そのために息の抜けない状況となっている。

 川本中尉には溜息しか出なかった。

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