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第4章ー29

 もっとも、土方勇中尉がそこまでの態度を執れたのは、いわゆる銀の匙を銜えて産まれてきた生まれだったから可能だったのも否定できない話だった。

 土方中尉以外の一般の士官だったら、周囲が丸め込んでしまっていただろうが。


 何しろ土方中尉は、曽祖父が土方歳三提督、祖父が土方勇志伯爵で、自身も将来の伯爵襲爵を約束された身という存在である。

 父の土方歳一大佐にしても、この後は何もせずに生き抜けただけでも、退役までには(鎮守府筆頭の)横須賀鎮守府海兵隊司令官就任は確実、おそらく海軍軍令部次長(海兵担当)(海兵隊の軍令関係ではトップ)で退官するのではないか、と周囲が目すだけの優秀な軍人である。


(ちなみに、土方中尉が篠田千恵子と結婚する際、千恵子が庶子であることから醜聞に仕立て上げた雑誌の見出しによれば。

「陸軍に寺内伯爵家があるように、海兵隊には土方伯爵家がある。

 土方伯爵家の将来の当主は、自らの力に奢って華族に相応しくない身分違いの結婚を強行している」

 という見出し記事を書いた程、世間においても土方伯爵家の知名度は高かった。)


 そして、土方中尉自身は、父や祖父から、その血筋故に身を慎め、としばしば訓戒を受けていたので、基本的に身を慎んでいたのだが。

 そのために却って、いざという時、土方中尉が動けば周囲に多大な影響を与えるのは否定できなかった。

 実際、怒った土方中尉は、怒りの余り、この時に自身の結婚式に際して仲人を務めた欧州総軍総司令官の北白川宮成久王大将に直訴状ともいえる手紙を送り、父にやり過ぎだと陰でたしなめられた。


 このために、この慰安所問題について、なあなあで済ませようとしていた上層部の一部の面々は、土方中尉が問題にして、北白川宮大将に直訴までしていると聞いて、これはなあなあでは済まないと背筋を伸ばす羽目になった。

 また、実際に利用した面々も、土方中尉が激怒している、上層部も厳しく取り締まろうとしている云々という話を聞いて、慌てて上層部に頭を下げて身を思い切り慎むという事態になったのである。


 そして、この時の慰安所問題は、結果的に慰安婦の望む方向で処理されて、この後で日本海兵隊の管理下に置かれた独軍の慰安所は基本的に閉鎖されたのだが。

 そうは言っても、そこで働いていて、今更、いわゆる娑婆、世間に還れなくなった彼女達のために作られた(ユニオンコルス等の介入もあったことから)民間の自由意思による売春婦の路に、諸般の事情から彼女達の多くが止む無く転職することになり、それはそれで悲劇を後に生むことになるのである。


 話がずれすぎたので、話を元に戻す。

 グディニヤとダンツィヒというある意味では双子の港湾都市を無事に確保して、そこから大量の物資の揚陸が可能になったことは、日米波連合軍のワルシャワ奪還計画において、最大の難問の一つが無事に解消されたことに他ならなかった。

 この第一報を受けた瞬間、後方にいたポーランド亡命政府の閣議は喜びの余りに、却って感情を多くの閣僚が示せずに無表情になったという伝説が流れたほどである。

 勿論、ワルシャワまでは、まだ300キロ近く離れている。

 しかし、ポーランド系住民の武装蜂起が相次ぎ、日米波連合軍を歓呼の声で彼らが迎え入れている中で独軍がどこまで抗戦できるか、というと。


 そして、補給や再編制を完結した日本海兵隊とポーランド軍は最後のワルシャワへの進撃を開始した。

 彼らの行く手を遮ろうとする独軍の部隊が無かった訳ではない。

 だが、実際には蟷螂の斧と化していたといっても過言ではなかった。

 少しでも優秀な部隊はベルリン救援に向かっていたからである。

 8月15日、ワルシャワは奪還された。

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