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第1章ー1 林忠崇侯爵の薨去

 今回、プロローグは無く、第1章がプロローグを兼ねます。

 1941年1月22日朝、林忠崇侯爵薨去。


 林侯爵の薨去を林侯爵家の家族や使用人以外で、最初に知ったのは土方千恵子だった。

 林侯爵は、自分に言うべからざる(死ぬ)ことがあった場合には、まず土方伯爵家に一報するように娘の林ミツや執事に言い残していた。

 本来からすれば、林侯爵の家族や使用人はそう言った場合には、最初に海兵本部なり、海軍省なりに一報すべきである。

 予備役に編入されていたとはいえ、林侯爵は元帥海軍大将という立場にある身だからである。


 または、華族なのだから宮内省に一報すべきである、という見方もある。

 だが、林侯爵なりの考えから、林侯爵はまず土方伯爵家に一報するように言い残していた。

 そして、皮肉なことに千恵子は、その理由を直接に聞かされた身でもあった。

 千恵子は、直接、林ミツの涙ながらの電話連絡を聞きながら、その理由を思い起こした。


「万が一の(自分が死ぬ)ことがあった時は、お前のところに連絡する。葬儀委員長をよろしく頼む」

「縁起でもないことを言われますな。ですが、承知しました」

 千恵子の目の前で、林侯爵と千恵子の義祖父の土方勇志伯爵は会話を交わしていた。


 千恵子は、ふと疑問を覚えた。

 林侯爵の葬儀委員長を務めるのに、義祖父以外に適当な方がそれなりにおられるのではないだろうか。

 千恵子の考えを察したのか、二人は理由を語り合った。


「本来から言えば、柴五郎が海兵隊提督の最長老として、わしの葬儀委員長をすべきなのだろうがな」

「柴提督は、例の件で林元帥とは仲が微妙になりましたから」

 二人の暗黙の目配せで、千恵子は察してしまった。

 私のためか。


 勿論、千恵子に全く咎は無い。

 かと言って、誰が悪いとも言い難い話だった。

 千恵子の両親は共に会津出身の幼馴染で事実上の婚約をしていたが、千恵子の母の実家は家柄は良いものの貧乏で、更に後には成功するものの千恵子の母方伯父は当時、相場に手を出し借金を作る有様だった。

 そうしたことから、千恵子の父の実家は二人の結婚に内心では反対しており、同郷の柴提督が千恵子の父に勧めた岸三郎提督の娘の忠子との縁談について、父を後押しして母との婚約を破棄させたのだった。

 だが、問題は(千恵子の母の主張によれば)既に母は千恵子を身籠っていたことだった。


 まだ、妊娠の極初期であり、婚約破棄時点では父も母も妊娠に気が付いておらず、婚約破棄に動転する余り、母が気が付いた時には中絶は無理な状況になっていて、母は千恵子を産んだとのことだった。

(当の千恵子は、父を岸忠子から取り返すために母が黙って妊娠したのでは、と勘繰っているが。)

 そして、父は出世のために身籠っていた幼馴染の婚約者を捨てたという汚名を被ることになり、父の実家は父を何で止めなかった、と周囲から村八分にされて故郷にいたたまれなくなり、離散してしまった。


 更に20年余りの歳月が流れ、成長した千恵子と土方伯爵の嫡孫、土方勇が恋仲になり、結婚しようとした際に林侯爵が奔走したことから、柴提督と林侯爵の仲は微妙になってしまった。

 林侯爵にしてみれば、若い恋仲の二人が幸せに結婚できるようにと奔走したのだが。

 柴提督にしてみれば、かつての大騒動(そのために柴提督は未だに会津に帰りづらい状況が続いている)を林侯爵に蒸し返されたような気がしてしまい、林侯爵との仲が微妙になってしまったのである。


 そして、そういったことから岸三郎提督も、本来からすれば林侯爵の葬儀委員長を務められる立場にあるのだが、林侯爵の葬儀委員長を務められるかというと、千恵子の一件から積極的になれない状況にある。

 どうのこうの言っても岸提督にしてみれば完全には寛大になれなかった。

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