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7.悪魔の洗濯(揉み洗い)

今回はジョセフとケネスが大活躍。

 悪魔と名乗った黒い人影に、一同は驚きのあまり静まり返り……我に返った次の瞬間。

「馬鹿野郎、これ以上事態を複雑化させんな!」

「お呼びじゃねえんだよ、すっこんでろ!」

《アレェ!?》

手当たり次第にそこらにある物が投げつけられた。




《待ッテ! チョット待ッテ!? 話ヲ聞イテ!?》

降り注ぐ雑多な物を半物体化で避けながら悪魔が叫ぶ。

「うるさい! 貴様、悪魔ごときがセレナ嬢争奪戦に名乗りを上げるとは推参すぎるぞ!」

「ふてえ野郎だ! セレナちゃんは渡さん!」

《ソノ女ニ興味ハ無イカラ! 攫イニ来タンジャナイカラ!》

悪魔の弁明に一旦静まり。

「なんだと貴様、我が女神セレナ様に興味が無いとは何事だ!」

「嘘をつくな! セレナ嬢にメロメロのくせに!」

《アンタラ馬鹿ダロウ!?》

より酷く鈍器が降り注いだ。


「まあまあ、皆さん落ち着いて」

目を血走らせている一同をジョセフが止めた。

「ちょっと話を聞いてみてもいいんじゃないですか」

《オオ、ヤット話ガ通ジル男ガ……》

ほっと一息つく悪魔に親し気に歩み寄るジョセフ。

「君、全身タイツマンとか言ったかな?」

《ドコカラ湧イタ、ソノ変ナ名前》

「いやいや、そんな出で立ちだからそういう趣味なのかと」

《半霊体ダカラ黒イ影ニ見エルダケダ!》

「うむ、そうか。僕たちの仲だ、それっぽく見えるから君の事は親しくキモタイツと呼ぼう」

《呼ブナ! ソレドウ聞イテモ悪口ダロウ!?》

「なかなか気難しいな。まあ名前はどうでもいい。君が何をしてくれるのか聞こうじゃないか?」

《オマエラガドウカシテルンダロウガ。名前ハドウデモ良クナインダガ……マアイイ、話ガ進マナイ。私ハコノ程度ノ壁ナドスリ抜ケル事がデキル。契約シテクレレバ中ヘ回ッテ開ケテヤロウ》

「ふむ。よし、直ちに開けてくれ」

《ワカッタ。デハ、コチラニ契約ノさいんヲ》

半分透き通っていた悪魔の身体が実体化し、どこからか羊皮紙のようなものを取り出した。

《コレニさいんヲスレバ、貴方ノ魂ト引キ換エニ扉ヲ開ケヨウ》

「おいおい君ぃ」

ニコニコ笑っているジョセフの笑顔が影を帯びた。

「初めての取引だったらまずは試供品で実績を積むのが商売の常道だろうが。出来栄えも判らないのに先払いなんて冗談が過ぎるぞ」

《……契約ガ効力ヲ帯ビルノハ事ヲ成シタ後ダ。問題ナカロウ》

「んん? 僕は出来栄えがと言ったんだよ? 長く付き合う気のない商人はうまい話で釣っておいて手抜きの酷い現物を収めてドロンッ! てのが多いからねえ。まずはサービスで何件かやって見せて、信用を勝ち得てから取引が始まるものだよ」

《扉ヲ開ケルダケデ粗悪品モ何モ無イジャナイカ! 悪魔ヲタダで使オウナンテ欲深イニモ程ガアルゾ!》

「ああん? 悪魔だからこそ信用が無いんだろうが! そもそも本当に開けられるのか? これはそんじょそこらの扉とは訳が違う。実際には出来ないけど契約して置いて『失敗したけど努力分払え』とか言って、なし崩しに持ち逃げするつもりだろう!?」

《人間ノ工事業者ジャアルマイシ、ソンナ事スルカ! イイダロウ、ソチラガソンナツモリナラ私ハ帰ル!》

 激怒した悪魔の前に、ゆらりとケネスが立ち塞がる。

「おう、クソ悪魔。御託はいいからさっさと開けやがれ。でないと……」

手の平に拳を打ち付けるケネスを見て、悪魔は冷笑を浮かべて身体を再び半透明にする。

《ハハハ、霊体ノ状態デ悪魔ヲ殴レルモノナラヤッテミタマエ。オ馬鹿ナ人間ヨ》

せせら笑う悪魔にケネスが拳を振りかざし……突き上げたアッパーが鳩尾にめり込んだ。

《オウフッ!》

続いて右頬にジャストミートし、悪魔が宙を舞う。

《グエッ!? ナンデ!?》

愕然としている悪魔は、ジャブの連打に堪らず床に転がる。

《ナゼ? ドウシテ、タダノ人間ガ素手デ私ヲ殴レルノダ!?》

「ケネス、どうやってんの?」

ジョセフの問いに、ケネスは自分の拳を見せる。彼の指には細い銀のチェーンがぐるぐる巻かれていた。拳の外側になる部分には、チェーンに通されている十字架が巻き込まれている。

「あ、それロザリオ?」

「おう、殴った時に威力が出るかと思ってアイアンナックルの代わりに巻いといたんだが、ちょうど実体のない悪魔に効いたみたいだな」

《オマエ罰当タリ過ギルダロウ!?》




 殴られまくって這いつくばった悪魔に、ケネスが拳を見せつけながら恫喝する。

「おう、いい加減立場ってもんが判ったか?」

《クッ……》

 しかし、顔を上げた悪魔にはまだ余裕の笑みがあった。

《ククク……私ヲ殴リ倒シタクライデ調子ニ乗ルナヨ?》

「なんだと?」

《オトナシク契約シテ魂ヲ差シ出シテオケバ良カッタノニナ! コノ場ヲ地獄ニ、シテヤロウ!》

見ている前で悪魔がわずかに光り、人間には理解できない言葉で呪文が唱えられる。

「なんだ? コイツ、何をやっている?」

《フフフ、ハハハハハ! 人間ゴトキガ悪魔ヲ舐メルカラダ!》

 悪魔が叫んだ途端。床に魔法陣が広がり、一瞬でその中に黒とも濃紫ともつかない煙が立ち上って雷電が走った。光に繋ぎ止められるかのように煙がすっと固まっていき、人の倍ほどもある姿が浮かび上がってくる。

《ヨクオ出デ下サレタ、魔王サマヨ! コノ愚カナ人間ドモニ魔ノ力ヲオ見セ下サレ!》

 出迎える悪魔が歓喜の叫びをあげる中、今いる悪魔を倍の大きさにしたような巨大な人型は恐ろしい嘲笑を浮かべて口を開いた。

《悪魔ニ喧嘩ヲ売ルトハ、ツクヅク愚カナモノダナ、人間トハ……》

周囲の人々を嘲笑いながら演説を続けようとした魔王……しかし彼の言葉が続く前に、その腹にケネスの剣が突き刺さった。


 魔王がしゃべり始めた所で、ケネスはふと思いついて礼拝堂にある洗礼盤に剣の刃先を突っ込んだ。中に注がれている聖水で剣先をじゃぶじゃぶ洗って、得意げに長広舌をぶつ魔王の腹に、

「えいっ!」

剣をぶっ刺す。

《ギャアアアアア! ナ、ナンダッ!?》

「あ、やっぱ聖なるものでコーティングしてやれば刺さるんじゃん」

「なんだ、魔王倒すのに希少な聖剣なんか用意しなくたっていいんだ」

「おいおい簡単だな。よーし、ぶっ殺しちゃえ」

騎士達が一斉に洗礼盤で新生児ならぬ自分の剣を洗って、次々と魔王にグッサグッサ刺していく。

《グァァァァァアアア!!》

「おお、いけるいける! もっと刺せ!」

《キ、キサマラ……聖具ヲナンテ扱イスルンダ……!?》

「うるせえ、命あっての物種だろうが。教会にはあとで寄付でもしとくわ」

 驚愕の表情で見つめる悪魔の目の前で、次々剣を刺されてのたうち回りながら魔王が倒れていく。

《魔王サマァッ! 逃ゲテェェェ!》

悪魔の悲鳴も空しく、せっかく出てきた魔王は自己紹介もすまないうちに切り刻まれて消えていく。呆然として実体化してしまった悪魔の肩をジョセフが優しく叩いた。

「あ~ああ、魔王様やられちゃったねえ?」

《ア、ア、ア……》

「いやあ、魔王も可哀そうだよねえ? 部下のミスの尻ぬぐいに来たら、まさかの返り討ちだもんねえ? いやー、これは君も魔界に帰りづらいねえ? 仕事は失敗、自分のせいで上司が殺されるとか……こんな事が魔界で知れたら君の立場どうなるかなあ? きっと針の筵だろうなあ? ご家族も肩身が狭いねえ? ……あ、そう言えば君、奥さん子供は?」

《エ? 妻ト五十ニナル娘ガ一人……》

「あ、悪魔で五十とかいうとまだ生まれたばっか? もしかして新婚さん? いやあ、そうかあ。お子さんかわいい盛りだよねえ」

ドス黒い笑みでジョセフは悪魔の顔を覗き込む。

「……奥さんも大変だよねえ……ちいちゃなお子さんを抱えて、いつまでも人間界から戻らない旦那を待ち続けるなんて。何か事故にあったかと不安でたまんないだろうねえ? 生活が不安になるよねえ? いっそ浮気されたと思って再婚してくれればいいけどねえ? 間違っても人間界に行方不明の旦那を探しに来ちゃったりなんかしたら……タチの悪い人間もいるからねえ? いやあ、心配だなあ」

 ガタガタ震える悪魔の前に、返り血まみれのケネスがしゃがみ込む。魔王に突き刺した剣で悪魔の頬をピタピタと叩いた。

「おう、知ってるか?」

《ハ? エ?》

ケネスは全く笑っていない瞳でニィッと微笑んだ。

「一番怖いのは、生きてる人間なんだぜ?」

《オ……》

「お?」

《オマエラ悪魔ダッ!!》

礼拝堂に悪魔の絶叫が響いた。

目的を達成するためなら手段を選ばない(悪いほうに)

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