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5.FCソフト『スーパーエドモンド』税抜4,800円

当初のプロットから脱線しまくりです。

「なにぃ、エドモンドは隠し通路も使いまくって神出鬼没に逃げ回っておるだと!」

包帯だらけで愛妻(笑)のもとから帰って来た国王が報告を受けて唸った。

「何としてでも大事になる前に捕まえるのだ! 隠し通路の図面を持ってこい!」

「陛下、隠し通路は近侍でさえ一部しか知らない王城最大の軍事機密ですぞ!? それを公開するなんて!」

 制止する宰相を王は振り払う。

「止めるな伯爵! このままでは大変な事になる! 機密保持などと言ってはおられん!」

「王子がセレナ嬢に手を出すことですか?」

「そうだ! 儂も手を出しとらんのにだぞ!?」

「息子の嫁に先んじて手を出そうという発想にドン引きです」

「お前が言うな」

「私のはまだ半人前(オコチャマ)の息子には嫁より母ではないかと愚考した次第です」

「まだ言うか、それ」

国王はバンバンと会議卓を叩いた。

「と、に、か、く! エドモンドが既成事実に持ち込む前に捕えねば、儂のセレナ嬢の身が危ない! エドモンドが手を出してしまえば成婚したという形ができてしまう。一度でも息子と結婚となってしまえば儂の側室にというわけにいかなくなるぞ!」

「いやいや娶るとか言ってたのから一時間も経ってないぞ?」

「そりゃ、王子と親子だしなあ」

側近たちがひそひそ話すのが聞こえているのかいないのか、王は地団駄踏んで怒鳴り付ける。

「ごちゃごちゃ言っておらんで図面を持ってこい! 早く、早くしなければエドモンドが嫌がるセレナ嬢を組み敷いて『あ~れ~!?』な事態になってしまうではないか! セレナ嬢がエドモンドの妻になってしまったら……あれ? 横暴なクズ夫に苦しむ美貌の若妻とダンディで英邁な国王の禁断のラブアフェア……イケるな」

「もう突っ込みどころが判りません」


 石造りの廊下に、大人数があちこちを駆け回る靴音がけたたましく乱反響する。

「おいっ、見つかったか!?」

「いや、こっちには見当たらない……って、後ろぉぉぉぉ!」

「えっ!? ああっ!?」

「見回り御苦労! ハーハハハ!」

 包囲網の隙を突き、脇をかすめて姿を消すエドモンド。神出鬼没でギリギリをすり抜けて逃げるその姿は、まるで食糧庫で姿を見られたネズミのよう。王子の知識を利用して保安設備(抜け穴)を使いまくるエドモンドに、追いすがる貴族たちは頭を抱えていた。

「くそう……どこをショートカットして出て来るかわからないから、しらみつぶしにしたって意味ないぞ!?」

「封鎖した筈の区画にいきなり出て来るからな……」

「いっそ囲んで大量に矢を打ち込むか!?」

「そもそも囲めないんだろうが! それができれば苦労はしない」

王城の守備を担当する近衛騎士団首脳部も頭を抱えていた。

「超極秘の筈の隠し通路の出入口が次から次へと暴露されてるぞ……」

「よりによって不特定多数の貴族が集まっている現場で……」

「いっそまとめて粛清しちまうか?」

「馬鹿ばっかでも貴族だからなあ……それができれば苦労はしない」


 騒ぐ国王と抑える宰相(オヤジ)の後ろで、ジョセフは城の見取図を睨んでいた。

「これだけ城の構造に詳しいエドが、無駄に時間稼ぎで逃げ回るものかな……?」

「追い詰められて、捕まらないように焦って動転しているのでは?」

他の捜索隊員に訊かれて、ジョセフが首を振る。

「普通に考えたら隠し通路の中まで捜索なんてしないしできない。エドはその辺りを俺達よりわかっている筈だ」

「となると?」

「隠れるだけなら通路の中に潜んでいるだけで充分なんだから、危険をおかして移動する必要なんてない……目的地はどこだ?」

「うーん……」

卓を囲んだ一同が思い思いに宙を睨んで考えるが、すぐに答えは出てこない。

 ジョセフがふと思いついて指を鳴らした。

「考え方を変えよう。どうやれば追い立てられる?」

「それならいい考えがある」

顔を見合わせあう人々の中で、いつの間にかこっち側にいるロックフォール侯爵が自信満々に挙手した。

「どういう手ですか?」

「城に火をつけて燻せば、丸焼けになる前に飛び出して来る」

侯爵の顔面に一発入れて昏倒させると、ジョセフは連絡係の侍従に指示を出した。

「エドを目撃した奴らに出没地点を見取図に落とさせろ。それから侯爵を医者の所に連れて行ってしばらく寝かせとけ(縛っとけ)




 中庭にある噴水の基壇の一部が静かに動き、セレナを抱えたエドモンドが顔を出した。

「セレナ、疲れてないかい?」

「大丈夫です。私は殿下に抱っこしていただいていただけなので……ところであの、どこに向かっているんですか?」

「母上のいる奥向きに向かっていたんだけどねえ、ちょーっと無関係な連中が騒がしいものだから迂回しているんだよ。そうだ、ちょっと休まないか? ゆっくり『ご休憩』できる所を知ってるんだ」

 さりげなく切り出したエドモンドの爽やかな笑顔の裏のドス黒さに気づくことなく、額面通りに受け取ったセレナもにっこり笑って同意した。

「ええ、殿下もお疲れでしょう。私は構いませんわ」

「うんうん、楽しく羽根を伸ばそうね」

「え? 休むのでは?」

 セレナの素朴にして当然な疑問にエドモンドが答える前に、中庭を囲む回廊で声が上がった。

「殿下だ! 中庭にいたぞ!」

「ちいっ!」

 エドモンドが飛び出すと同時に、あちこちから人が集まってくる。物陰に逃げ込む前に二人は囲まれてしまう。

「なんだ? この辺りはやけに追手がいるな……?」

「お前の行動を予測して、この辺り一帯に集中的に包囲を敷いたんだ」

 エドモンドの疑問に、人垣から一歩進み出たジョセフが答えた。

「エドが姿を見せた地点と時間を並べれば、どっちの方へ向かっているかが推測できる。お前はランダムに出没しているように見えて着実に後宮の方へ近づいていた。そして隠し通路は隙間を縫う構造上、この辺りで一度姿を見せねばさらに奥へ進めないと判断した」

「ほう?」

「このまま王妃陛下の元へ逃げ込み、王を黙らせて結婚を強行しようという腹だろう? エド、お前とは長い付き合いだ。どう考えているかなんてお見通しだ」

 ビシッと決めるジョセフの言葉に、余裕綽々のエドモンドが肩をすくめた。

「ジョセフ、お前とは長い付き合いだが、あと一歩の詰めが甘いのは変わらないな」

「……答え合わせは最後までしなくていいんじゃないかな? どうせお前はここで捕まり、僕が解放されたセレナ嬢にプロポーズする流れは変わらない」

 キメたジョセフの肩を公爵が叩く。

「ジョセフ君、後半部分に事実誤認があるな。そういうのはナイスミドルの役割だ」

「未来はそうなっているのですよ閣下。貴方は末っ子の嫁ぎ先でも心配していて下さい」

「そう言う君はどうかね? 宰相になれるように後援してやるから身の丈に合わない夢は諦めなさい」

 仲間割れで揉め始めた包囲網の隙をエドモンドが見逃すはずがなかった。

「だから詰めが甘いって言ってんだよ!」

「うわっ!?」

ジョセフと公爵が掴み合っている方へ意識を持っていかれていた二、三人の貴族を蹴倒して、エドモンドは包囲を突破する。

「クソッ、逃げたぞ!」

「包み込め!」

慌ててエドモンドを追いかける連中の後ろで、それでもジョセフは不敵に笑った。

「甘いのはお前だエド! 包囲網がこれだけと思ったか!」

ジョセフの言葉に呼応するかのように、角の向こうから第二陣が姿を現した。




 最初にエドモンドを囲んだ集団はセレナに横恋慕する貴族たちが多かった。

 それに対して。

「殿下、王の御命令です。いろいろ言いたいことはあるかと思いますが、我らに一旦ご同行願います」

 後から出てきた集団は命令で動いている(やらされている)近衛兵や侍従が中心だ。やる気は遥かに低いが、技量的には貴族たちよりはるかに上だ。ジョセフ的にはこちらが本命だろう。

「これで追いかけっこは終わりだ、エド」

 ジョセフの勝ち誇った声を後ろに聞きながら……エドモンドも口の端を吊り上げた。

「だから何度も言ったろう、ジョセフ。お前は甘いんだ」

待ち構える包囲陣に、エドモンドはさらに足を速めて突っ込んだ。


 突っ切ろうとするエドモンドを、最初第二陣は包み込むように動こうとした。だが……包囲の口が閉じようとした瞬間。

「うわっ!?」

「なんだ? 何をする!」

エドモンドが突っ込んだ付近の近衛騎士たちが一斉に剣を抜き、周囲の味方に襲い掛かる。パニックになって崩れた囲みの中、寝返った騎士たちの間をエドモンドがすり抜けた。

「残念だったなジョセフ! お前の浅知恵はお見通しだ!」

エドモンドが包囲を突破した後の廊下を王子に呼応した一団が封鎖、追っ手は行く手を阻まれ、逃げるエドモンドを睨みつつも身動きが取れなくなった。

「エドめ、逃走の間に調略を仕込んでいたのか!? クソッ、いつの間にこんな寝技を使えるように……」

ジョセフが歯噛みしている間にもエドの後姿は消えていく。

 第二陣を指揮していた近衛騎士団長(ケネスパパ)が叛乱を起こした部下を睨む。

「貴様ら、なんのつもりだ! これは王命だ、王子に同情したなど言い訳にもならんぞ!」

 エドモンドに従った騎士達も青い顔ながら覚悟を決めているのか、動揺する様子が見られない。

「承知の上です、団長。我らには王命に逆らってでも王子を援護する理由があるのです!」

激怒して今にも抜刀しそうな騎士団長の手を押さえ、ジョセフが進み出た。

「諸君、なぜ命令違反を犯してまでエドにつくのか? 王に抗命してはエドが何を約束しようと恩賞なんか期待できないぞ?」

「我々は地位や金を欲しくて王子に味方するわけではありません!」

「では何だ?」

若い騎士たちは胸を張り、使命感に燃える澄んだ瞳で即答した。

「王子が無事に逃げおおせれば、後でセレナ様にプレゼントするつもりだった下着(パンツ)を御下賜下さると約束していただいたのです!」



 しばしの無言。



「……いろいろ言いたいが、とりあえず一ついいか?」

「はっ、なんでしょう?」

「エドが約束した『セレナちゃんにあげるつもりだった』下着(おぱんつ)って……結局セレナちゃんに一回も渡らないんだから、もうそれ他人の下着(パンティ)じゃねーか! 騙されるな!」

「そんな事は百も承知です! でも、どう逆立ちしたってセレナ様を射止めるなんて幸運を期待できない下っ端の我々には、もしかしたらセレナ様のお手に渡ったかもしれない一品をいただけるだけで命を懸けるに値する栄誉! ここをどうしても押し通ると言うなら、我らの下着(ぱんちゅ)の為に剣の錆になっていただきます!」

「バカ者どもが! 多勢に無勢、この場で死ねばどうせ手に取ることもできんのだぞ!」

「その際にはせめてもの情け、我らの墓石にかぶせてくれれば本望!」

情けないことを堂々と言い切る若手の騎士達は、殉教者の無垢な輝きに満ちている。

「くぅぅ、さすが我が国の近衛騎士団……脳筋の馬鹿さ加減が突き抜けている……!」

公爵の呻きに何故か誇らしげな近衛騎士団長(バカの親分)

「お褒めに与かり恐悦至極!」

「団長、褒めてません」

ジョセフはそのまま追いかけるのをあきらめると、こちら側の騎士達にとにかく叛乱兵を囲んでエドモンドに合流させないように命じた。

「本体は別の廊下から追いかけよう。さすがにこれ以上エドに買収された馬鹿はいないと思うけど……」

「しかし、後宮に逃げ込まれてはさすがに男ばかりの我々が踏み込むわけにいかないぞ? 規則もそうだが王妃陛下が怖い」

「ふふふ、大丈夫ですよ団長。エドの狙いがわかった段階で、後宮の入り口前を第三陣で封鎖しています。そちらは若手貴族で編成していますから寝返る者もいないでしょう」

「なるほど! よし、急いで追いかけて挟み撃ちにするんだ!」

「おおぅ!」

ジョセフの言葉でさらに策が練ってあると知り、意気が上がる一同。我がちに皆が駆けだす中、ジョセフはエドモンドが消え去った方角を見つめる。

「くくく、逃げられないぞエド! セレナちゃんと結婚するのはこの僕だ!」

「いや、私だ」

「いやいや、俺だ」

「公爵、団長、余計な合いの手はいらないからさっさと追いかけてください」

年甲斐もないオジサマがた多数。

気持ちは若い。

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