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10.魔王と僕らの狂騒曲

まだまだ国王の大活躍!

「そういえばさあ」

ジョセフがエドに呟いた。

「なんだ」

「ここって、礼拝堂だったよね」

「今頃何を言ってるんだ。物心ついた頃から、ここは礼拝堂だっただろ?」

「や、目の前の光景を見るとね。再確認したくなったんだ」

「まあ、気持ちは判らんでもない」

二人の目の前では。

「ワーハハハハ、レッツ、ダンシング!」

裸のオッサンたちがパンツを振り回しながら行進していた。




 余計な性癖を開花させたらしい国王は絶好調だった。

「文武両道才色兼備、空前絶後で天下無双なスーパーインテリダンディのこの儂に、魔界の変態を統べる裸の王・ストリーキングが合体した。そう、こうなった儂はもはや国王だの魔王だのなどと言う卑小な存在ではない!」

《ソンナモノナンテ支配シトランワ! 勝手ニ動イテルダケダロ、オマエハ! 中身ハ100ぱーせんと腐ッタオマエダ!》

魔王の誹謗中傷など今の王には痛くもない。

「超進化した儂は人類と魔族の最終進化形に到達した。もはや儂はただの王では無い!」

全裸でおかしな決めポーズをセレナに見せつける王は重々しく宣言した。

「そう、今の儂は……パーリーピーポゥに進化したのだ! ウェーイ系パリピに進化した儂を止められる術など、もはやこの世に存在しない!」

《訳ガ判ラン、フザケルナ! 悪魔ノ進化形ガオマエナンテ、世界中ノ悪魔ガ憤死シカネン侮辱ダ! ……オイ! 聞イテルノカ、コラ!?》

ナルシズムに浸っている王に悪魔の声がなんだかケチをつけているのを横目に、ケネスがコソッとエドモンドに聞いた。

「なあ、ウェーイ系パリピってなんだ?」

「知らんのか? 食器洗い桶で風呂に入ったり、氷室の中に入り込んで氷菓と一緒に並んでたり、調味料の壺を鼻に突っ込んで見せびらかすのが好きなアレだ」

「ああ、馬鹿の事か……」

「確かに最終進化形だよな……あそこまで行ったら人間終わりだ。治しようがねえ」

《ソレガオマエの父親ダゾ!? イイノカソレデ!?》

魔王の矛先がこちらに向いてきたが気にしない。それどころではなくなったからだ。

「魔王の変態力の前では人間の抵抗など無力な物よ。者ども、悪魔の悦楽がどれほどの物か、存分にセレナ嬢に見せつけるのだ!」

 いきなり国王が仲間を募り始めたのだ。

《変態力ッテナンダ!? オマエ悪魔ヲ馬鹿ニシテイルダロウ!?》

魔王の抗議を無視して、王は群衆に念を押した。

「いいな、変態魔王ストリーキングの支配力の前では、“いかなる人間でも抵抗できない”。“どれほど高潔な人物でも”、“本人の意思を無視して無理やり従わされてしまう”のだ!」

 一拍置いて。

「ウェーイ!」

《待テーェェェェェェェ!!》

魔王の制止を無視して、重臣たちが脱ぎ散らかす衣服が宙に舞い広がった。


 手で顔を覆ってプルプル震えるセレナの周りを、全裸のオッサンたちが自分の下着を振り回しながらパレードしている。

「ヘイヘイヘイ! 悪魔なパリピの行進だぜ! 不本意だけど魔王にやらされているから仕方ない! シェイクヒップ! レッツ、シェイキン!」

「ウェーイ!」

《誰ガソンナ事ヲ命ジタ! 他人ニ責任ヲナスリツケルナ!》

 明るい日中なのにここだけ異空間。美少女にセクハラし放題という悪魔の誘惑に気安く(プライド)を売った、ダメな大人の失楽園。

 嬉々として踊っているオヤジたちを指折り数えるケネス。

「国王に宰相に近衛騎士団長に、公爵に辺境伯に大法院長に……世界で一番豪華なストリップだな」

「ああ……そして世界一醜悪で見るに堪えないラインダンスだ」

《ナニ冷静ニ分析シテイルンダ! 親ヲ止メロ!?》

「やだよ、あんなのと親子に見られたくない」

《親ダロ!? 貴様ラが止メズニ誰ガ止メルンダ!》

「ああああああ……こんな恥ずかしい事を無理やりさせられて、陛下たち可哀そう……」

しくしく泣いているセレナも叫ぶ。

「皆さんにこんな酷いことをして……魔王は破廉恥です!」

《メッチャ胸ニ刺サルゥ!? ドンナ冤罪ヲ押シ付ケラレテモ悪魔ノ勲章ト笑ッテ来タガ、コレバッカリハ恥辱モイイトコロダ!》

「笑って収めろよ、冤罪好きなんだろ?」

《変態扱イハ嫌ダ!》

「好き嫌いは良くないぜ。うちのオヤジに付け込まれたのはお前が悪いんだろ」

《アァァァァ、ナンテ事ヲシテシマッタンダ……》

「軽く悪魔の狂宴(サバト)だな」

《魔界ニモ無イワ、コンナ地獄絵図!》


 セレナを中心に裸踊りを披露する中年軍団と囲まれているセレナ、その外に傍観(様子見)の若手。そして叫ぶばかりで実態が無いから手出しができない魔王。その図式の中で、国王たちもエドモンドたちも魔王も忘れていることがあった。

 そう、馬鹿らしいけど命令だから付き合っている廷臣たちだ。

 元々やる気は皆無な侍従や騎士たちだったが、事ここに至ってもう手に負えないと判断。最高責任者の国王がしらふと思えないため、次席責任者に指示を仰ぎに数人が走った。

 ……つまり王妃に連絡が行ったのだった。




 初めに気が付いたのは鍛えているケネスだった。

「なんだ? なんか変な音がする」

「変な音って」

ジョセフが周りを見回した。

「変人の奇声ならそこら中に」

踊り狂うオッサンたちの雄叫びと、制止しようと無駄なあがきをする魔王の怒鳴り声が礼拝堂の吹き抜け空間にこだましている。

「いや、それじゃなくてな。なんかもっと、ゴロゴロいう音が……」

ケネスが説明している間にも、地鳴りのようなその音は他の者にも聞き取れるぐらい大きくなって……急に音量が跳ね上がったと思うと、入口から車輪の付いた丸太が突っ込んできた。

「のわぁっ!?」

慌てて数名の若手貴族が飛び退くが、そっちを見ていなかった熟年貴族たちがはねられてまとめて吹っ飛ばされる。裸のオッサンたちが降ってきて、周囲の貴族や侍従が本気の悲鳴を上げて逃げ回った。

「なんだ!?」

「破城槌の一種だ! なんでこんなものが突っ込んでくるんだ……?」

 さっき無かった筈の攻城兵器は切ったばかりの木の香りがする。メチャクチャ言われて気にした王国騎士団がたった今作ったばかりのようだ。問題は、それを誰が使ったか、だが……。

 モノを確認して礼拝堂の入口に視線を移したエドモンドたちは、そこに仁王立つ一人の男を見つけた。

 両手に長戦斧(ハルバード)を持つその人は……。

ロックフォール侯爵(セレナちゃんパパ)?」

魔王が登場を切望していたその人は、

「さあ諸君……地獄へ行く時間だ!」

両手持ちの筈の長戦斧を軽々と二本とも構えると、

「うらららららぁあぁぁあああああ!」

咆哮を上げて突っ込んできた。


「侯爵、話せばわかる!」

「問答無用!」

公爵が柄に引っ掛けられて吹っ飛んだ。

「私は無関係です」

「貴様は自分の格好(はだか)を見てからモノを言え!」

宰相が思いっきり峰打ちで殴られて床に沈む。

「はっ、素人が滅茶苦茶に振り回した斧など恐るるに足らず!」

「貴様も自分の格好(はだか)を見てから言え!」

近衛騎士団長は抜くはずの刀をそもそも持っていなかった事に気づいた瞬間に、頭に一撃を受けて昏倒した。

 そんな無双する侯爵を、エドモンド達はいち早く部屋の反対側に逃げて眺めていた。

「やるな、パパ上」

「呑気に褒めてる場合か? 一番狙われてるのはおまえだろ、エド」

「しばらくは大丈夫。どう見たってセレナを囲んでる裸のオッサンどもの方が優先だろう」

「そりゃそうか」

 エドモンドの言う通り、侯爵は国王に触発された中年貴族たちを片っ端から叩き潰していく。近くにいると無差別に攻撃されるので服を着ていても安心できないが。


 父が助けに来たことに気が付いたセレナがパッと顔を輝かせた。

「ああ、お父様!」

無事そうな娘の笑顔に、侯爵(パパ)も顔をほころばせる。

「セレナたん! 助けに来たぞ! この変態どもから!」

「お父様、皆さん悪気はないんです。悪魔に操られているの!」

セレナの訴えに、にこやか過ぎる微笑みを返す侯爵。

「大丈夫だ、パパに任せなさい! 今コイツらに止めを刺して魂を開放してやるから」

「えーと? それでいいのかな……?」

「良くない! 全然良くない!」

「いいんだよ、セレナたんにセクハラした悪魔自身(・・)を退治しないと、ね……」

笑顔のまま、ギラリと目を光らせた侯爵が抗議した子爵を踏みつぶす。負のオーラが吹き上がる怒れる父親は、次々と裸祭りの参加者(どうりょう)を跳ね上げて行く。たまに見物客(わかて)も跳ね上がる。

 状況がよく判らないセレナはちょっと考え、

「お父様、頑張って!」

とりあえず父親の応援を始めた。




「うーむ。侯爵が来ちゃうのは予想外だったのう」

国王は顎に手を当ててちょっと考えた。

 バーサーカーモードの侯爵が、王だからといって見逃すとは考えられない。これは逃げないとヤバそうだ。

《ワハハ、乱行ノ報イダ、アノ男ニヤラレテシマエ、変態メ!》

 魔王がうっとおしい。

「うるさいストリーキング。貴様のせいで厄介なことになったではないか」

《変ナ名前ヲツケルナト何度言ッタラ判ルノダ!? ハハン、オマエも年貢ノ納メ時ダナ》

「儂は年貢をもらう方で収める方ではないわい。……というわけで、逃げるに限るな」

 公爵はまだ逃げ遅れた目に付く連中を狩るのに夢中でこっちを見ていない。今のうちにコソッと出てって服を着たら玉座にでも座って無関係を装おう。

 そう思って侯爵を見ながらそーっと入口の方へ踏み出した途端。

「うおぅっ!?」

いきなり頭を何者かに掴まれた。強い力でギリギリと握りつぶしてくる。

「な、なんじゃ!?」

そのまま持ち上げられ、頭痛と体重がかかった首の痛みに耐えている間にぐるっと視界がまわると……目の前に微笑む配偶者がいた。

「陛下は本当に懲りないですわね……あれだけ言い聞かせても躾が足りなかったとは」

「お、おおおお王妃……」

王は知っている。王妃はこの顔の時が一番ヤバい。

「陛下。こちらは皆さん忙しいようですし……奥でゆっくり、お話ししましょうね」

「ゆ、ゆっくりしている場合でもないというか、のう?」

「ゆ~っくり、お話ししましょうね? 最近夫婦の語らいが足りなかったと、私は今反省しておりますの。このような騒ぎが今後起こらないよう、じっくり語り明かす必要がありますわ……拳で」

「そ、それ一方通行じゃないかのう?」

「妻の話を黙って聞くのも夫の務めですわ」

何も言えずにガタガタ震える国王の姿に、魔王の歓喜した声が響く。

《ワハハハハ、因果応報ダ、変態メ! 他人ノ名ヲ騙ッテ好キ勝手シタつけヲ払エ》

「そうじゃ王妃、コイツじゃ、この魔王ストリーキングが儂の身体を勝手に使ってこんなことを!」

《コノ期ニ及ンデ見苦シイゾ!》

「うるさい、儂だけひどい目に合うなんて嫌じゃ! 責任はおまえにあるのじゃ!」

王妃はちょっと考えて、ニコリと笑った。

「ご安心を、陛下。私、悪魔祓いも得意ですの」

「へ? ホントかの?」

「ええ。夫に取り付いたセクハラ魔人や浮気魔を散々懲らしめて参りましたわ」

「いや、今回のはそういうのとちょっと違うんじゃが」

「やることは一緒だから大丈夫ですわ。ええと、魔王ストリーキングとか申しましたか?」

《ソレハコイツラガ勝手ニ呼ンデルダケダ!》

「貴方の名前はどうでもいいですわ……まあ、本当に憑いているんですのね。いいでしょう。うちの夫に憑りついたこと、後悔させて差し上げますわ」

王妃の宣戦布告に、魔王は勝ち誇って嘲りを放った。

《ホホウ、我ヲ祓ウトイウカ。ダガ我ハ、オマエノ夫ニシッカリ憑リツイテイル。祓オウナドスレバ、夫モ死ヌガ良イノカ?》

王妃も魔王の挑発に微笑で応じた。

「まあ、私は陛下が死ぬようなキツイことは致しませんわ……ただ。いつも私が優しく“説得”いたしますと、何故か陛下は『いっそ殺してくれ』と泣くんですのよ」

《……》

「さあ、この分ならしばらく陛下の仕事も開店休業になりそうですからお時間はいくらでもありますわ。陛下と魔王さんと……たっぷりと三者面談を致しましょうね?」

「ストリーキング、貴様のせいだぁぁぁ! 責任取れぇぇぇええ!」

《ソレハコッチノせりふダァァァ! 我ヲ巻キ込ムナァァァアア!》

国王と魔王は仲良く王妃に連れ去られた。




「うーん、なんか、場が収まったかな?」

「ジョセフ、他人事みたいに言っているけど侯爵の攻撃対象だからな、俺たちも」

ケネスに言われたジョセフが指を鳴らした。

「それだ」

「なんだ?」

「いや、な?」

ジョセフがそーっと棍棒を握りなおした。

「陛下と魔王も片付いたし、そろそろコイツも片付けるべきじゃないか? なあ、エド!」

そう言って素早く棍棒を振り下ろそうとした先に……エドモンドがいなかった。

「あれ!?」

「え? エドモンドが消えた!?」

ケネスも今気が付いた。

 慌てて見渡せば……もう一人いない。

「やばい……全員、注目っ!」

ケネスの大声に、まだ部屋に残っていた者たちが一斉にこちらを見る。

「エドモンドがセレナ嬢を連れて逃げた!」

ケネスの指摘に。

「またかよ!?」

貴族たちの悲鳴がこだました。

魔王様、お疲れさまでした。

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[気になる点] >公爵はまだ逃げ遅れた目に付く連中を狩るのに夢中でこっちを見ていない。 公爵→侯爵の誤字かと
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