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戦場はいつも群青色で泣いている  作者: 織田 伊央華
第2章「灰色の世界に咲く黒」
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第1話「プロローグー黒が生きる世界ー」

お待たせいたしました。第9話の更新になります。


 人が建てた建築物という物は人の手が入らなくなった途端に劣化していく。


 コンクリート建造物に関してはひびが入り、徐々に崩れ落ち、最終的には柱が折れたりするようになる。


 その後は植物に侵食され、苔が覆ったり樹木が生えてきたりと自然に取り込まれていくのだ。


 その事からも建物にもメンテナンスが重要だという事が分かるだろう。





 第2防壁が閉ざされて3か月。


 今まで綺麗な外観や、窓ガラスによって光を反射させていた建造物はその殆どを廃墟と化し、すでに植物によって侵略を受けている場所もある。


 伸び放題になった蔦は壁を這い、柱に巻き付き、その生存圏を拡大していく。


 そんな建物の一つ。


 地上15階建てのタワーマンションの屋上に一人の人の姿があった。


 屋上は元々庭園のような場所だったのか、今では生い茂った草が伸び伸びとしており、時折吹く風に体を揺らしている。


「こちらイーグル1、配置完了」


 そんな中、地面に寝そべる一人の人間。


 体には緑色の迷彩柄のポンチョの様な物を羽織り、同じく緑にペイントされた長いモノを持っている。


 それはビルのふちから数センチの距離にある銃口を持ち、引き金の上には大きなスコープを乗せた狙撃銃、L96A1である。


 イギリスのアキュラシー社で開発されたボルトアクション式狙撃銃で、着脱式のマガジンを持つものだ。使用する弾薬は7.62㎜×51㎜NATO弾であり、マガジンには10発まで装填可能である。


 重さは6.5キロと比較的重く、しかしながら高い命中精度から軍でも正式採用されるほどの狙撃銃である。


 そんなL96A1に取り付けられたスコープを使い、覗く先には群れを成して歩く緑色の生物がいる。


「目標のバルグ集団確認。兵士級が27で周囲に別個体は見えないわね」


 口調からして女だろう。その女は素早くバルグの数を数え、頭部に着けているマイクに報告を行う。


『了解。イーグル1は標的が予定ポイントを通過まで待機。通過後適宜射撃を許可』


 帰ってくる言葉は酷く単調であり、まるでロボットのような言葉。しかしながらこのような戦場においては非常に聞き心地がよい口調でもある。


「了解したわ」


 女はすぐに返事を返すと先ほどのバルグの集団に視線を戻す。


 先程オペレーターが言っていたポイントまでは距離にして100メートルほどであり、歩いている状態のバルグ達が通るにはもうしばらくかかるだろう。


 そう思い、僅かに動かしたスコープで新たに捉えるのは先程の兵士級のバルグよりも少しばかり大きなサイズの集団。


「予定通りね」


 そう呟く口調は仲間が到着していることについての安堵か。またはこれから始まるであろう作戦の結果を考えてのものなのか。


 女はスコープ越しに探していた人物を見つけ出した。


 数多くいる武装した人間たちの集団。その中にいる一回り以上に小さな存在はすぐに見つかった。


「相変わらず見つけやすいわ」


 見つかった友人に対して安堵する女。このポイントに着くまでも何度か突発的な戦闘があったと移動中に報告を受けている。


 もちろんその程度でけが人を出すような鍛え方をした連中でない事は女自身が体感している事でもあるが。


「まぁ、あの子が怪我なんてするわけないわね」


 そう言いながら女は準備を始める。


 傍に置いていた肩掛けバッグから装弾済みのマガジンを取り出す。その数は3つほどであるが、それだけでも運んでいる最中には重さを感じたものだ。


「昔の装備が欲しくなるわね」


 自身が数ヵ月前まで使っていた装備であればこれくらいの重量は物ともしない。狙撃銃の重さだけで階段を上る際に休憩が必要な自信の体力を呪いたくなる。


「まぁ、だからこそスナイパーなんだけどね」


 そう自虐の言葉を吐きながらも準備は続いて行く。



 

 時間にして数分だろうか。


 風が吹く屋上は時折チラつく雪からもわかるように非常に寒く。気温で言うのならば氷点下に差し掛かっているのだ。


 女としてもなるべく着込んで来たが戦闘になることを考えるとあまり嵩張るモノを着る訳に行かない。妥協点として動いているとそこまで寒くない程度に抑える必要があった。


「そろそろね」


 そういい、見つめる先には交差点を通過するバルグの集団。


 そして次の瞬間に女の腹に響くような爆音が聞こえた。


 その根源は先程バルグの集団が通った交差点であり、四隅に設置された指向性爆薬。昔からよく使われていたクレイモアという対人地雷の爆発音だった。


 正式名称“M18クレイモア地雷”はアメリカ軍で使用されていた指向性対人地雷の一つである。


 1.6キロの重さで、湾曲した箱状の外観であり、内部には700個もの鉄球とC-4爆薬を内包している。地上に設置し、通常はリモコンやワイヤートラップによって起爆する。


 今回に限っては四隅に各一つ、計4個設置し、リモコンで起爆したのだ。


 その爆発によって有効加害距離である50メートル内に2800個もの鉄球が不可視の速度で内側にいるモノたちに襲い掛かる。


 もちろんそれらをそのモノたちが避ける事などできずに被弾。体内の緑色の血液をまき散らした。


「有効打撃を確認。援護射撃に入るわ」


 そう呟きながら女が行うのは400メートルほど離れた屋上だ。


 指に掛けたトリガーを引き絞り、それによって落ちた撃鉄は信管を叩く。すると瞬時に発火した無煙火薬の力によって鉛の弾が秒速700メートルほどの速度で銃口から飛び出した。


 同時に押し当てていた肩に反動、そして押し殺したような炸裂音が小さく聞こえてくる。その理由としては


「このサプレッサー、意外と音が小さいわね」


 減音装置を銃口に付けているからである。


 狙撃銃に減音装置を付けると射程や命中精度が落ちるため基本的には使用しない。しかしながら今回の狙撃ポイントは400メートルと女にとっては近く、そこまで影響はないと判断したために使用しているのだ。


 女は無言でレバーを引き、排莢。それと同時に次弾を装填する。それと同時にコンクリートの上に落ちた薬莢が甲高い音を奏でた。


 そして再びスコープを覗き込んで、すぐに引き金を引く。


「二匹目」


 女が狙っているのは負傷して動きが遅くなったバルグであり、また死にかけているバルグである。


 クレイモアを設置していたのは地上であり、その数も4個と少ない。その為27匹いたバルグをすべて倒せるとは思っておらず、最初から生き残りを排除する任務が女に与えられていた。


「5匹ほど飛び出したわね」


 爆発の混乱から飛び出したのは5匹のバルグ。いずれも無傷とは言えないが、走れるくらいのものであり、未だ健在と言えよう。


「さあ、貴方の出番よ」


 そう呟きながら再び引き金を引く女。その顔には微笑が浮かんでいたことを他の者が知ることはない。




 女が二つ目のマガジンを装填する頃にはすでに爆心地に動くバルグはいなくなっていた。


「さて、あちらはどうなってるのかしら」


 そう言いつつスコープを向けた先、地面に横たわるのは一面バルグの死骸。


 抜け出したはずのバルグは5体であり、地面に横たわるのも同じ数の5匹。きっちりと仕留めていた。


「うわぁ。まさかあの子一人でやったの?」


 そんなバルグの死骸の中に建つのは一人の少女。


 黒い長髪を後ろでまとめ、整った容姿と両手に握る自動拳銃はとても様になっている。女が狙撃前に確認していた友人である。


「サキ、あんた一体どこを目指してるのよ。これじゃそのうちビックリ人間にでも登録されるんじゃないかしら」


 そう友人であるハルカは言葉を漏らすのだった。



今日より第2章に入りました。今後もよろしくお願いいたします。

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