99:20-6-D6
【ゾッタたちは『狂戦士の鬼人の王』を倒した】
「終わったあああぁぁぁ!」
「疲れたあああぁぁぁ!」
「クソつよじゃねえかああぁぁ!」
ボスを倒した事を示すファンファーレが鳴り響く中、プレイヤーたちが思い思いに叫び声を上げる。
どうやら、『狂戦士の鬼人の王』を倒した事で緊張の糸が切れ、叫ばずにはいられなくなったらしい。
まあ、気持ちは分からなくもない。
俺が以前倒した『柔軟な球根の王』とは比較にならないほど強かったしな。
【素材とホムンクルスの核、どちらを入手するか選択してください】
「ふむ……」
さて、ボス討伐の報酬だがどうしたものか。
携帯錬金炉が欲しいだけとか、戦力をとにかく増やしたいとかなら、ホムンクルスの核を貰ってしまっても良い。
だがここは……うん、敢えてこうしよう。
「いいんですか?」
「ああ、問題ない」
と言うわけで、俺は素材の方を選択。
その場で休む俺に近寄ってきたシアに応えつつ、インベントリの中に『狂戦士の鬼人の王』の素材を収める。
で、説明を見てみる。
△△△△△
『狂戦士の鬼人の王』の頭骨
レア度:1
種別:素材
耐久度:100/100
特性:バーサーク(猛り狂う者に祝福を)
『狂戦士の鬼人の王』の頭骨。
牙と骨が完全に残った状態のそれは、見る者全てを威圧する。
通常個体であるバーサークオーガのものよりも質が良い。
▽▽▽▽▽
「ふむふむ、良さそうな物が手に入ったな」
「ボスな分だけ質が良いという事でしょうか」
「そう言う事だろうな」
俺とシアは『狂戦士の鬼人の王』の頭骨の説明文を見ながら、少しだけ感想を言い合う。
しかしボスから入手すると、質が良くなるのか。
これはシステムに沿って極めるなら、中々にマゾい事になりそうな予感になるな。
【ゾッタの戦闘レベルが9に上昇した。戦闘ステータスの中から上げたい項目を一つ選んでください】
「と、レベルも上がったな」
「おめでとうございます。マスター」
俺はステータス画面を操作して、生命力を1上げる。
回復力には一区切りがついているので、ここからは他に上げたいものが出てこなければ、生命力を20まで上げる感じかな?
△△△△△
ゾッタ レベル9/11
戦闘ステータス
肉体-生命力14・攻撃力10・防御力10・持久力9・瞬発力10・体幹力10
精神-魔法力10・撃魔力10・抗魔力7・回復力20+3・感知力10・精神力11
錬金ステータス
属性-火属性10・水属性10・風属性10+1・地属性10・光属性7・闇属性10
分類-武器類13・防具類13・装飾品13・助道具13・撃道具11・素材類13
▽▽▽▽▽
【自動生成ダンジョン『狂戦士の砂漠の塔』をクリアしました。以下の選択肢からお選びください】
「分かっていると思うが、選択肢を間違えるなよ!」
「言われなくても!」
「そもそも徒歩帰りしたくないからだっての!」
で、最後に移動先を選択する画面が表示されたので、俺は慎重にその画面を操作、自分の所属する錬金術師ギルドの本部へと転移して、『狂戦士の砂漠の塔』を後にした。
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【AIOライト 20日目 10:35 (1/6・晴れ) 始まりの街・ヒタイ】
「……っと」
「着きましたね」
「んー、疲れたぁ」
「ふぅ」
『巌の開拓者』本部に着いた俺たちは、その場から移動しつつ、背伸びや肩回しをして、こった体をほぐしていく。
で、久しぶりに来た『巌の開拓者』ヒタイ本部だが……うん、何の変りも無いな。
いつも通りに多くの人で賑わっている。
「で、これから師匠はどうするの?」
と、ここで何故かシュヴァリエが師匠呼びで話しかけてくる。
「どうって……とりあえず回収したアイテムを倉庫ボックスに置いてくるとして、その後は……まあ、色々と素材も手に入っているから、登録したり、錬金をしたりだな」
「なるほどなるほど、なら暇な時間にけ……」
「断る」
「むぐう……」
危なかった。
と言うかやはり決闘厨は決闘厨だったか。
油断も隙もあったものではない。
「マスター、錬金術をするのも良いですけど、先に休憩ですからね」
「あー、確かにMPはともかくとしてHPは拙いか」
「私も『癒しをもたらせ』は使えませんから、おとなしくじっとしていてくださいね」
「はい」
シアに指摘されて気付いたが、俺のHPバーはいつの間にか10%あるかないかぐらいまで削れていた。
どうやら、俺が思っている以上に『狂戦士の鬼人の王』との戦いは接戦になっていたらしい。
この感じだと……うん、三時間ぐらいは休むしかないか。
「と、そうだ。最後のラッシュの時の榴弾、あれ助かったわ。ありがとうな」
「……」
と、ここで俺は俺たちと一緒に帰ってきたプレイヤーの一人、背中にライフル銃を提げ、肩に小鳥型のホムンクルスを止まらせた男性プレイヤーに礼を言う。
彼の狙い済ませた一撃によって、『狂戦士の鬼人の王』は体勢を崩し、勝利に至ったのだから、MVPまではいかなくとも、戦いに大きく貢献したプレイヤーである事に間違いはない。
そう思っての発言だったのだが……。
「俺は自分がやるべき事をやっただけの事だ。礼を言われる筋合いはない」
そう言うと男性プレイヤーは自分の部屋へと帰って行ってしまった。
「何あれ感じ悪い。師匠が褒めてくれたのに」
「うーん、どうして帰ってしまったのでしょうか?」
シュヴァリエは不満そうに、シアは訳が分からないという感じで口を開く。
だが俺には分かっていた。
「うーん、アレは仕事人だな」
「「?」」
「いや、何でもない」
アレは一種の仕事人であると。
仕事以外では黙して語らない、出来る男だと。
うん、シアとかには理解されないかもしれないが、密かに憧れておこう。
ああいう男こそ、憧れるには相応しいのだから。
「と、そう言えばシュヴァリエ、お前が『狂戦士の鬼人の王』で使っていたあれは何だったんだ?」
「アレ?」
まあ、彼についてはこれぐらいにしておくとしてだ。
今はそれよりも聞く事がある。
「あの細剣を光らせていた奴だよ」
それは『狂戦士の鬼人の王』との戦いの最後の方で、シュヴァリエが剣を光らせ、今までにない威力と勢いで攻撃していた事。
アレはどう考えても何かしらの特別な効果を発揮していた。
なので、俺は出来る事ならばその秘密を知りたいと思ってシュヴァリエに質問したのだが……。
「ああアレね。ふっふっふー、アレは僕のとっておきさ!」
「「……」」
うん、やっぱりシュヴァリエはシュヴァリエだった。
俺とシアの目の前で謎のポーズを取りながら堂々と宣言するその姿を見せられたら、そう思わずにはいられなかった。




