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【AIOライト 13日目 06:02 (満月・晴れ) 始まりの街・ヒタイ】
「昨日は見事にやられたな……」
「本当ですね……」
『百華を統べる森の女帝』とその配下のモンスターによって何も出来ずに消し飛ばされた次の日。
普段以上に人が居ない『巌の開拓者』ヒタイ第24支部の共通スペースで俺とシアは身体を休ませながら雑談していた。
と言うのも、昨日の死に戻りの影響がまだ僅かに残っていたからだ。
「マスター、『百華統べる森の女帝』については?」
「一応、掲示板に報告はした。が、相手が相手だしなぁ……スクショを撮っておいてくれたシアには悪いけれど、信じて貰えない可能性の方が高い気もする」
「そうですか」
なお、『百華を統べる森の女帝』については勿論の事、俺とシアが見つけた湖についても掲示板には上げてある。
興味がある人が居れば、前者はともかく後者については他のプレイヤーからも発見の報告が上がる事だろう。
ただ、今日に限っては……埋もれてしまうかもしれない。
今日の掲示板はとある事で大盛り上がりになっているからだ。
「それで、ハナサキ。でしたっけ」
「そう、ハナサキだ」
掲示板が盛り上がっている原因はハナサキ。
始まりの街・ヒタイから西に二日から三日ほど行った場所に存在している自称漁村、実質港町である。
それでまあ、ただ新しい村が見つかっただけならば、騒ぎにはなっても、俺とシアの発見が埋もれかねない程の騒ぎにはならなかっただろう。
「携帯錬金炉とか言う、出先で錬金術を行えるアイテムの錬金方法が教われるらしい」
「レンタルした部屋以外でも錬金術が出来ると言うのは、もしかしなくても大きいですよね」
「ああ、かなり大きい」
ここまでの騒ぎになった原因は携帯錬金炉。
情報を得たプレイヤーによれば、今まで各錬金術師ギルドの自室でしか出来なかった錬金術を、制限つきではあるものの外でも出来るようになる特殊なアイテムとの事だった。
このアイテムが生み出す利便性は……想像するまでもないだろう。
制限がどの程度の物なのかは分からないが、今まで持ちきれなかったアイテムを持てるようになる。
現地で必要である事が分かったアイテムをその場で造れる。
今までは捨てるしかなかった持ちきれないアイテムを捨てずに済む。
と、素晴らしい物ばかりなのだから。
「じゃあ、マスターも行きますか」
「行きたい……が、その前に準備が要るな」
そんなわけで、掲示板が大いに賑わうと同時に、多くのプレイヤーが実は今、西へと向かっており、俺も単純な感情的にはその流れに乗りたい所ではある。
が、今日の流れには乗るわけにはいかなかった。
「ハナサキに行くなら、最低でも三日分の食糧が要る。それに恐らくは雨具も」
理由は準備不足。
今の俺は食料を持っていない。
これだけでもハナサキに行く準備が整っていないと言い切れてしまう。
が、それ以上に必要なのが雨具だ。
「雨具……ですか?」
「ああそうだ」
俺の言葉にシアは少し首を傾げる。
まあ、シアが気付かないのは仕方がないし、俺だって確信があって言っているわけではない。
恐らくそうではないかと言う程度の予感だ。
「恐らくだが、明日は雨が降る。七日目に雨が降っていて、これまで一度も雨が降っていないからな」
「なるほど。だから雨具ですか」
「そう言う事だ」
だが半分以上は確信している。
この世界『AIOライト』では七の倍数の日に雨が降る、と。
そして雨が降った時に対策をしていなければ……まず間違いなく死に戻りする事になるだろうとも。
「ではマスター、今日はハナサキに行くための準備ですか?」
「まあ、そう言う事だな。最低三日は持っていられる食料に、雨の影響を免れる方法の確保。これだけは絶対に必要だ」
俺はシアにそう応えつつ、具体的にどうやって必要なアイテムを得るかを考える。
まず食料については保存食を作る必要がある。
俺の貧相な知識で思いつくものとなると……塩漬けの干し肉だとか、カッチカチに乾燥させたビスケットの類だろうか。
その辺りならば三日ぐらいは持ちそうである。
雨具は……合羽みたいなのがあればいいか。
確か以前に掲示板で作り方も出ていたと思うので、そちらの方で作り方を調べてみてもいいかもしれない。
「それと……必須ではないけれど、戦闘レベルの方も上げたいな」
と、そうして話をしている間に、死に戻りの影響が抜けたのか、身体のだるさが無くなってくる。
これならば問題なく戦えるだろう。
「それでは自動生成ダンジョンの方に行く必要がありそうですね。地上に出現するモンスターのレベルはあまり高くないですから」
「そうだな。あくまでも俺とシアの二人で挑んでも大丈夫なダンジョンが有ったら、という話だけど、そう言う事になると思う」
「……。あの、マスター?」
「どうしたシア?」
と言うわけで俺は立ち上がり、シアも俺に倣って立ち上がる。
が、その表情は何処か微妙そうな顔をしていた。
「パーティを組むとかは考えないんですか?そうすれば私とマスターだけでは手を出せないダンジョンにも手を出せると思いますけど……」
どうやら、シアは俺がパーティを組む気がない事に対して苦言を呈しているらしい。
いやまあ、今後の事も考えたら確かにパーティは組んだ方がいいのだろうけど……。
「いや、パーティは組まないでおく。組むにしてもトロヘルみたいに信頼できる奴だ」
「ダンジョンに挑むにしてもですか?」
「むしろダンジョンに挑むからこそだ。後ろから撃たれるぐらいならまだしも、勝手な行動をして次から次へと敵を呼ばれたりしたら、それこそ死に戻り待ったなしだからな」
「なるほど」
勿論、シアに対して妙な目を向けてくる連中と一緒に居たくないという俺の勝手な思惑も存在しているが、どうやらシアはそんな俺の気持ちには気づかなかったらしく、納得顔で頷いていた。
「さて、そろそろ行くぞ。今日は東の丘陵だ」
「はい」
そうして俺とシアは、地上部でも獣形のモンスターが出やすい東の丘陵へと向かったのだった。




