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AIOライト  作者: 栗木下
10章:創門街・タイバン

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621/621

621:???-?

本日は三話更新です。

こちらは三話目になります。

【??? ???日目 ??:?? (???・??) ???】


「まったく、何処の世界にプレイヤーがラスボスを務めるゲームが……結構あるんですよねぇ。困ったことに」

「まあ、今の世界は多様化が著しいし、ここに一例存在している以上、他にないとは言えないだろうな」

 何処とも知れぬ場所、何時とも知れぬ時間、天地はおろか混沌と虚無すらも定かではない異常な空間にゾッタとGMは居た。


「さて、それじゃあ確認だ。GM」

「そうですね。確認を取りましょうか。ゾッタ」

 そんな空間でゾッタは自分の足元に赤黒い靄のような物を座椅子の形状で出現させると、そこに腰掛ける。

 対するGMもあらゆる色の入り混じった混沌とした色合いの椅子を出現させると、そこに静かに腰かける。


「まず、俺のプレイヤーとしてのデータはほぼシアに移譲される。そうだな」

「ええ、その通りです。アンブロシアは既にホムンクルスではなく、人間として扱うべき自我と自主性を得ています。なので、今後は貴方が居た枠にアンブロシアが収まる事になるでしょう。『AIOライト』でも現実世界でも」

「ま、負の財産は全て俺が持っていくけどな」

「当たり前でしょう。貴方の負債を背負える人間なんて居るはずがないのですから」

 ゾッタとGMの間に球体と盤が一つずつ現れる。

 球体は一般に地球儀と呼ばれるものに似たそれであるが、その表面の大半は黒と赤で彩られていて、表面に生じた無数の水泡は今にも弾け飛びそうだった。

 対する盤は地図であり、記された地形は『AIOライト』の世界を上空から見ている形になっている。

 だが、盤からは赤い水が滝のように流れ落ちており、大地は羊の頭と四肢を持った女性の身体のようにも見える。

 そして両者の間では球体から盤に向けて赤黒い何かが送り込まれ続けていた。

 水泡が弾け飛ばないようにするために。


「俺は『AIOライト』のラスボスとして、分体を使い、新世界創造の希望者を試す。俺に勝てれば新たなる世界を、負ければ普通に死に戻りだ」

「分体のスペック及び行動と思考のパターンについてはこちらで事前に規定した通りの物にしてもらいます。貴方の自由意思に任せると、何時まで経っても攻略者が出てこないと言う事が有り得ますから」

「言われなくても従うさ。ここは俺の意思で動くべき場面ではないからな」

 ゾッタの手から盤に向けて小さな人形のようなものが投じられる。

 すると、盤の上で幾つかの光が断続的に起こる。

 そうして、暫くの時間が経つと光は止み、代わりに盤から幾つもの青い球体が生じ、何処かへ向かって移動していく。


「さて、いったい幾つの世界がどの程度保つだろうな?出来る限り多くの世界に生き残って欲しいと思う所ではあるが」

「さあ?分岐した後については、全ての責任はその世界の主となった神にあります。なので私の知った事ではありません。数千、数万に分岐して、一つの世界が生き残ればマシな方でしょう」

 そうして移動していった青い球体たちは様々な動きを見せる。

 それまでに比べて大きく輝くものもあれば、呆気なく弾け飛んで混沌と虚無に呑まれて消滅していくものもある。

 何処かに向かって目にも止まらぬ速さで飛んで行ってしまう物もあれば、本当にゆっくりとゾッタたちから離れていくものもある。

 青から赤へと色が変わっていく球体もあれば、水色や黄色、黒ずんでいく球体もあった。


「三千世界の存続と興亡を望む割には随分と冷たいな」

「三千世界の終焉と虚無を望む割には随分と温かいのですね」

 だが、それらの動きを大して気にするそぶりも見せずにゾッタとGMは会話を続ける。


「まあいい。いずれにせよこれが終わりの始まりだ」

「まあいいでしょう。何にしても此処から全ては始まります」

 ゾッタの身体から噴き出す炎の量が増す。


「全ては必ず終わる。それはこの世に生れ出たもの全てに共通する運命だ。何ものも終焉から逃れる事は叶わない。いずれは虚無へと消え去っていく」

「世界は存続し続けるでしょう。そこに住まうものの叡智と勇気を以って。不用となった物を捨て、新しく始め続けることによって運命には余白が生じるのですから」

 GMの赤い瞳と青い瞳の輝きが増す。


「お前がそう言うのであれば、これは勝負だ」

「これは勝負です。貴方がそう言うのであれば」

 二人の言葉に合せるように、空間に無数の光と闇が生じ始める。

 それは、盤から生じていた光の数をはるかに上回るものであり、幾つかの光と闇は近づけばゾッタとGMの両方を呑み込んでもなお、余裕があるような大きさをしていた。


「俺は俺の権能と在り方を以って、三千世界に終焉をもたらし、虚無へと導こう。GM……いや、『神喰らい』エブリラ・エクリプスよ」

「私は私の権能と在り方を以って、三千世界に変化をもたらし、興亡を与えましょう。ゾッタ……いいえ、『終焉招き』ゾッタ」

 そんな中で、二人の身体から無数の光と闇が飛び散っていった。

 まるで、これから全てが始まり、終わると言うばかりに。

 そして、後には全てが黒く染まり、ひび割れた球体と盤だけが残された。






















「……」

 ゾッタとGMが去ってからしばらく経った後。

 その領域に二つ分の人影があった。


「此処に、マスターとGMが居たんですね」

「……」

 人影の片方はフードを目深に被り、ギロチン状の刃が付いた杖を背中に付け、身動きする度に花弁や虹色の光が辺りに舞っていた。


「……」

「追いかけます。ここまで来れるようになってもやっぱり私はマスターのホムンクルスですから」

 もう一つの人影は奇妙な外見の生物に跨り、腰に刀のような物を提げている以外は特徴らしい特徴が見て取れなかった。


「……」

「はい、此処までありがとうございました。そして、ここから先は上で見守っていてください」

 人影の片方は剣型の台座に緑色の宝石が填まった指輪を着けた手で杖を取ると、無造作にそれを振るい、もう片方の人影の首を落とすと跡形もなく消し去る。


「終焉をもたらすものに終わりをもたらすものの役割、謹んで受けさせていただきます」

 そうして残った一つの人影も何処かへと消え去った。

これにて『AIOライト』完となります。

尤も、ゾッタとGMのゲームはまだまだ続くでしょうが。

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― 新着の感想 ―
[一言] 殴り魔からゾッタさんを追ってここまで来ました。 素直な感想としては、えぇ…?って感じですけど、まぁ面白かったのでよしっ!
[一言] シア………希望をもって、でも物悲しい最後でした。 よき神話でした。神話であるがゆえに、終わりはなく続いていくことも福音であると信じて。
[良い点] 過去作読破記念に感想を。 各主要キャラがそれぞれ掘り下げれば話が作れそうなぐらい特徴があって面白かったです 他プレイヤーと関わりがない序盤の説明パートは楽しさが伝わり難い分、ストーリー…
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