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AIOライト  作者: 栗木下
10章:創門街・タイバン

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620/621

620:115-1

本日は三話更新です。

こちらは二話目です。

【AIOライト 115日目 17:55 (新月・晴れ) 囲いの山脈】


 翌朝。

 俺はタイバンへ転移すると、そのまま西に進んだ。

 新月と言う事で襲ってくるモンスターも無く、ネクタールにフィズィを持たせてあるので気温の低下も問題にはならず、急峻な山道も俺の行く手を阻む事が出来るほどではなかった。


「いい景色だ」

「はぁはぁ……」

 そうして休むことなく進み続けた俺たちは、夕暮れ頃になって、囲いの山脈の切れ目に存在する湖に到着した。

 湖の対岸は水平線の向こうにあって見えず、湖沿いに回り込もうと思っても壁のような尾根に阻まれて先に進む事は出来ない。

 人体で言うならば、この湖は丁度ヘソをイメージするような位置になるわけだが、普通のプレイヤーが湖の向こう側に渡ろうと思うのであれば、船かそれに準ずる手段は必ず必要になるだろう。

 なにせ、今この場から見るだけでも、巨大なクジラ型のモンスターであるプレンホエールや、この間戦ったクラーケン種、それに細長い胴体を持った東洋龍と言ったモンスターが何頭も生息しているのが見えているのだから。


「此処が……マスターの……言っていた場所……何ですか?」

「ああ、その通りだ」

 俺は湖に背を向け、ここまでの強行軍で息を切らしているシアの方を向く。

 そして、シアの息が整う頃……日が暮れた。


「っつ!?」

 シアの表情が強張る。

 だがそれも当然の事だろう。

 なにせ、日暮れと同時に湖の対岸が真っ赤に染まり上がり、月の無い夜を赤黒く染めるほどの量がある赤黒い光が湧きあがったのだから。

 それもただ湧き上がるだけでなく、見る者すべてに悍ましいと思わせるほどの悪意、邪気、害意、瘴気、怨念、ありとあらゆる負のものを撒き散らしながらだ。

 今は距離があるから問題はないが……湖の先で普通の人間がこれに触れれば、それだけで正気を失い、命を奪われ、精神を壊され、魂を穢される事だろう。


「ます……たぁ……アレは一体……」

 だからシアは一歩退いた。

 そして退いたからこそ、この先にシアを連れていくことは出来ない。

 退けたからこそ、教える対象として見る事が出来る。


「アレは混沌だ。善も、悪も、そうでないものも、全てが詰まっている」

「混沌って……アレはどう見ても……」

「そう、今は悪意の方向に大きく偏っている。なにせ元は現実世界に存在していた物をGMがこちらに持ってきた物だからな。現実世界がそう言う方向に傾けば、『AIOライト』にある混沌も同じ方向に傾く。そして今も混沌は肥大している。このまま肥大していけば……現実世界はアレに塗りつぶされて滅び、終焉を迎える。それも俺が考え得る限りでは最悪の形でもってな」

「そんな……」

 だから俺はシアに背を向けるとゆっくりと語り出す。

 『AIOライト』の真実、その一端を。


「そして、それを防ぐために親切にもGMは一つのゲームを作り出し、アレを一部だけでも制御できるような存在を育成することにした。『賢者の石』を作り出す過程において、ほぼ全ての人は自然に神と呼ばれる領域に踏み込むことになるからな」

「……」

「故に『Alchemist Inquiry Only Light.』。錬金術師はただ一つの光と言う名の真理を求め、至り、合一する事を目標とした、『AIOライト』と言うゲームが世に生み出される事となった」

 だが全ては語らない。

 全てを教えられたのではどうやっても向こう岸には渡れない。


「マスターは……マスターは何時からこれを知っていたんですか?」

「さて何時からだろうな?悪いがそこまで教える気はない。それに今この場において俺が語るべき事はそこじゃあない」

 俺はネクタールと剥ぎ取り用ナイフをその場に放り捨てると、湖に向かって歩き出す。

 GMのものも含めて、遥か彼方から幾つもの視線がシアへの説明を始めた時から注がれている。

 だから俺は少しでも印象に残るようにと出来る限り堂々と振る舞う事にし、その一環としてヘスぺリデスの黒葉を詰めたカプノスを吸い始める。


「順調に見えたGMの計画だが、幾つかの想定外が起きた。その最たる者が……」

 変身した俺の足が湖面の上に……乗る。

 乗って、湖の中へと沈む事なく俺は湖面の上を歩いていく。


「「「ーーーーー!!」」」

 すると、敵対者の存在を感知してか湖に生息する大型モンスターたちが俺に襲い掛かろうとする。

 だが……


「虚無が子である終焉の眷属として成った、ゾッタと言う神と言うわけだ」

 『AIOライト』に存在できるギリギリのサイズの分体を召喚した俺にとってはプレンホエールは頭を握り潰して即死させられる程度の相手でしかなく、プレンクラーケンは睨み付けるだけで全身が炭と化して息絶え、プレンロンは適当に武器を振るうだけで千切れるような相手でしかなかった。


「そう、これが今の俺の本来」

 そう、『AIOライト』にギリギリ存在できる俺と言うのはだ。

 身長は20メートルを超えている。

 全身が黒曜石のような金属光沢を持った黒い何かで出来ており、頭からは二本の角を、背では三つの黒輪とそれらをまとめて囲うような大きな黒輪を回転させ、目口と関節からは赤黒い炎を吹き上げている。

 腕に纏うのは赤黒い風で出来た衣であり、履くのは赤黒い雲、右手には斧を、左手には短剣を握り、腰には極彩色に輝く衣を着けている。

 そう言う化け物としか称しようのない姿なのだ。


「さて、『AIOライト』に存在するすべてのプレイヤーに告げよう」

 周囲の想念を燃やすこの身体が発する熱量に反応して湖全体が沸騰し、赤黒い蒸気を上げ始める中で、俺は言葉を紡ぐ。


「己が望む世界を持つ者よ。廃都・ハラワタに来るがいい。汝が力が望みを叶えるに足るものであり、我を下す事が出来るのであれば、廃都の混沌は汝が望みを叶えるだろう」

 俺は最後に再びシアの方を向く。


「だが、誰も廃都へ至る事が出来ないのであれば、至る事が出来ても力が無いのであれば……その時は我が権能と在り方に基づき、全てを虚無へと導こう。それが汝らが得る最後の幸福であるが故に」

 シアは……怯えていた。

 だが、怯えつつも、俺の姿をしっかりと見据え、ネクタールとナイフ、それにアナスタシアを手に持っていた。


「それでは諸君。また逢う日を待っている」

 俺はその姿に満足すると、赤黒い霧の中に溶け込むようにその場から姿を眩ませた。

12/01誤字訂正

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