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AIOライト  作者: 栗木下
10章:創門街・タイバン

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616:113-6

「せいっ……」

 シュヴァリエの姿が再び掻き消え、観客の多くはその姿を見失う。

 だが、その大半はこう考えていただろう。

 姿が消える前はレイピアを構えていたのだから、いずれの方向からか刺突攻撃を行うと。


「バル!」

 しかし、その予想は裏切られる。

 シュヴァリエが現れたのはラードーンの右斜め後ろであり、その手に握られ向けられていたのはバルテンペッタが変身した銃。


「カアッ!」

 バルの銃口から黄色い風の弾丸が散弾の形で放たれる。

 彼我の距離は3メートルほどあり、銃弾の速度と散弾の性質を合わせれば、回避できる距離ではない。


「させませんよー」

「「「受ケ止メー」」」

 だからラードーンは振り向く事もせずに複数のミニラドンを生み出して盾にする。

 そして、攻撃を受け止めたミニラドンは爆発し、周囲に爆炎と爆風を撒き散らす。


「だろうね」

 で、ここまではシュヴァリエが予想していた通りなのだろう。

 シュヴァリエはバルで発砲した直後、更に移動、今度はヴィオレエクレールが変身した刀を居合の形で振り抜こうとする姿で、ラードーンの左手側眼前に現れる。


「せいやあああぁぁぁぁぁ!」

 シュヴァリエが紫色の稲妻を纏ったヴィオを振り抜こうとする。

 不意を突く形である上に、ミニラドンを盾にしても、ミニラドンごと切り裂かれて攻撃を防ぐ事も出来ない距離。

 普通ならば詰みである。

 そう、ラードーンが普通であるならば。


「はい」

「へっ?」

 迫りくる刃など気にした様子もなくラードーンが一歩だけ前に出て、まるで水が器に合わせて形を変えるような異様に滑らかな動きでシュヴァリエの腕の内側に入り込む。

 そうして、シュヴァリエの攻撃を避けると、肩でほんの少しだけ胸を叩いて、物理法則を無視したような軽さでシュヴァリエの体を浮かせる。


「ではー……」

 そうやって隙を作り出すと、唖然とするシュヴァリエの目の前でラードーンは片手を少しだけ引きつつ、引いた手に自身の魔力を、俺の本体からの魔力を、それから周囲の呪詛の一部を込める。


「せいっ!」

「!?」

 直後。

 ラードーンの掌がシュヴァリエの腹にめり込むのと同時に、赤黒い水の波紋が広がるようなエフェクトと同時に大質量の金属同士がぶつかるような音が鳴り響く。


「これでー」

「がはっ……」

 シュヴァリエのHPバーが一気に減少していき、50%を切る。

 だが、俺以外の全員がシュヴァリエのHPバーなど気にしてはいなかっただろう。

 何故ならば……


「終わりですねー」

「……」

 攻撃を受けたシュヴァリエは完全に気絶し、泡を吹いてその場で崩れ落ちたからである。


「ああ、勝負ありだ」

 そうしてシュヴァリエとラードーンの決闘はラードーンの圧勝で終わったのだった。



----------



【AIOライト 113日目 20:00 (2/6・晴れ) 創門街・タイバン-ヘスペリデス】


「シュヴァリエの様子はどうだ?」

「意識は取り戻したけど、もう暫くは身動きできなさそうね。本人曰く『内臓が全部ひっくり返ったような気分で、ものすごく気持ち悪い……』だそうよ」

「そうか」

「んー、ちょっとやり過ぎちゃいましたかねー……?」

「いや、丁度いいくらいだろ。僅差だと直ぐにもう一回とか言い出しかねないしな」

「あれで丁度いいって、マスター……」

 決闘終了後。

 俺がグランギニョルからシュヴァリエの様子を聞く。

 と言っても、今の俺の感知範囲だと現実のシュヴァリエの身体含めて普通に見えているし、そうして見た結果として体に異常が残らない事は確認済みなのだが。


「ボソッ(そう言うわけだから、視線に様々な病気を引き起こすタイプの呪詛を乗せるのは勘弁してもらいたいんだがな……)」

『断ります。誰のせいですか、誰の。致死性でなくとも現実の身体にまで影響を与える呪詛を含んだ掌底など、そう安易に撃っていいものではないです』

「どうしたの?ゾッタ兄」

「いや、何でもない」

 なので経緯含めて今回はGMから怒られる要素はないと思うのだが……万病を招くタイプの魔眼がさっきから俺の本体に向けて叩き込まれている。

 まあ、大して効果はないし、GMもその事は分かっているだろうから、ただの鬱憤晴らしだろうな。


「それで、ゾッタ兄。ラードーンのあの強さは何なの?あれ、明らかに戦闘経験のないホムンクルスの動きでもなければ、戦闘能力でも無かったわよ」

「そうですね、マスター、その点については私も気になります」

「返答はご主人様にお任せしてー、私は仕事に戻りますねー」

 さて、グランギニョルとシアの質問に答えないといけないな。

 宴会に参加しているプレイヤーたちも気になっているようだし、ラードーンに答えさせるわけにもいかない質問だから、俺が答えないといけない。


「あれなぁ……それを明らかにするのも含めて『藤の契約(グリスィナ)』の入団試験と言う事にしたいんだが……」

 だが、どこまで答えたものか。

 あまり情報を明かし過ぎるとグランギニョルたちの成長に繋がらないし、そもそもミアゾーイ関係の諸々について説明しなければいけなくなる。

 それは駄目だろう。

 GMも視線で駄目だと言っている。


「俺の魔力や力の一部を利用している。とは、まず言っておこう」

「それはあの時の一撃で出たエフェクトから何となく分かるわ。『AIOライト』の中であの色をゾッタ兄以外に使っている人なんてまず居ないし」

「ですね。私もマスター以外では見た覚えがないです」

 まあ、これくらいは予想済みか。

 

「後言える事としては……そうだな。ラードーンは外を知っている。そして外を知らない限り、勝ち目はない。とだけ言っておくか」

「は?」

「へ?」

 俺の言葉にグランギニョルもシアも首をかしげる。

 この言葉の意味が分かるのは……まだまだ先だろうな。


「さ、これ以上のヒントは無しだ。後は自分で考えてくれ」

「分かったわ……」

「はあ……外ですか……」

 だが分からなければラードーンには勝てない。

 そう、ラードーンの本来の名前はリアフ・ラードーン。

 その基になったのはリアフ・フォ・エフィルと言う『AIOライト』どころか現実の地球でもない存在であり、木端とは言え神に属するものである。

 神であれば必ずしも人より強いなどと言う事は無いが、リアフに限って言えば、アレは戦いと簒奪の為に生まれた神であり、その戦闘能力は人とは比べ物にもならないし、僅かであれば法則を従えることだって出来る。

 そんな相手を倒そうと言うのであれば……最低でも世界と言う物に外があると言う事実くらいは知っておかなければ話にならないだろう。


「さて、次の酒はっと」

 そうして俺は次の一杯を飲み始めた。

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