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本日は二話更新です。
こちらは二話目です。
【AIOライト 113日目 19:30 (2/6・晴れ) 創門街・タイバン-ヘスペリデス】
「さて、それじゃあルールのおさらいよ」
宴会場の中心に作られた直径20メートルほどの特設リングの上で、10メートルほど離れてシュヴァリエとラードーンが相対し、その間に審判役としてグランギニョルのホムンクルスであるアブサディットが立つ。
で、リングの外に作られた貴賓席のような所からグランギニョルがルールの説明をする。
「勝敗が付く条件は現在HPが最大HPの50%を下回る事と一度リングの中に入った者がリングの外に出る事」
さて、二人の様子だが……どちらも普段通りと言う感じだな。
シュヴァリエはいい感じに力が抜けているし、ラードーンはいつも通りの呑気な雰囲気を纏っている。
「オーバーキルによる死に戻り、消費アイテムの使用及び装備品の損耗については自己責任。ホムンクルスの使用についても自由よ。そう言ったものも含めてその人物の実力と言う事ね」
なお、今回の決闘に当たって、ラードーンには俺が作った武器を与えている。
と言うのも、ラードーンは普段、作業用の器具を除けば武器の類を持っておらず、武器なしでは流石に今のシュヴァリエにダメージを入れる事は出来ないからである。
ちなみに性能についてはこんな感じだ。
△△△△△
カースストロウグローブ
レア度:3
種別:武器-拳
攻撃力:300
防御力:75
耐久度:100/100
特性:カース(傷つけたものを傷つけ返す)
インクリス(他の特性を強化する)
麦藁を編んで作られた簡素な手袋。
武器ではなく防具として用いる方が正しいかもしれない。
▽▽▽▽▽
「マスター、本当に大丈夫なんですか?」
「ま、どっちに転んでも問題はないから大丈夫だ」
「そう言う意味ではないんですけど……」
まあ、性能としてはレア度:3の範囲内における最低限と言う所か。
俺の目算通りならこれで十分なはずだがな。
「シュヴァリエが勝てばゾッタ兄の錬金術師ギルド『藤の契約』への加入条件の一つを満たすわ」
「さて、そろそろだな」
「本当に大丈夫なのかな……」
俺はテキオンの白汁を基に作られたお酒を口に含みつつ、本体からラードーンへ向けてほんの僅かにではあるが魔力が流れ込んでいくのを感じ取る。
「では、両者構えなさい」
「ラードーン、僕のギルド加入の為にも覚悟してもらうよ」
「それはこっちの台詞ですよー、シュヴァリエさーん」
シュヴァリエがレイピアを構える。
対するラードーンは特に構えらしい構えは取らず、笑顔を浮かべるのみである。
「ファイト!」
グランギニョルが開始の合図を告げる。
「せいっ……」
それと同時にシュヴァリエが普通の人間の目では姿が掻き消えて見えるようなスピードで突撃し、ラードーンの眼前に移動してレイピアを突き出そうとする。
「やああっ!」
そうしてシュヴァリエが瞬時にレイピアを突き出す事数度。
普通の人間の目では、ここでシュヴァリエの姿がラードーンの前にある事に気づき、即座にラードーンのHPバーが削られる光景を思い浮かべた事だろう。
「はいはーい」
「「「守ルー」」」
だが、シュヴァリエの刃がラードーンに届く事は無かった。
何処からともなく現れた無数のミニラドンたちが盾として的確にシュヴァリエのレイピアの切っ先に現れ、その身を犠牲とする事で攻撃を防いだために。
そして……
「っつ!?」
「ぶっ飛びましょうねー」
ラードーンの呑気な声と共に攻撃を受けたミニラドンたちが爆発。
赤黒い爆炎と煙を上げて、シュヴァリエを吹き飛ばす。
「あぐっ!?」
「「「ーーー!?」」」
「あらら、残りましたかー」
観客の視線がHPバーを30%程減らすと共に、リングの端まで吹き飛ばされたシュヴァリエに向く。
直後に無傷で微笑んでいるラードーンに向けられ、最後にまるで説明を求めるように俺へと向けられる。
「今まで言っていなかったが、ミニラドンは呪詛の塊のような物でな。攻撃を受けて弾け飛んだ時の威力はご覧の通りだ」
「「「……」」」
「オ仕事ー」
「運ビマスー」
「じゅーす美味イー」
なので軽く説明をしたが……観客の大半がドン引きして、偶々近くにミニラドンが居たプレイヤーは少し顔を青くしているな。
まあ、別に良いか。
「ぐっ……師匠のホムンクルスだから無抵抗でやられる事は無いと思っていたけど……」
「ふふふふふー」
さて、リング上に視線を戻そう。
立ち上がったシュヴァリエは回復アイテムを使ってHPバーを回復すると、再びレイピアを構える。
対するラードーンは……相変わらず構えらしい構えも取らずに微笑むだけである。
だが今となっては、大半のプレイヤーがあの微笑みから感じるのは余裕さと不気味さだけだろうな。
なにせ、並のプレイヤーには反応できるはずがないシュヴァリエの攻撃を的確に迎撃し、反撃して見せたのだから。
人の顔のような物が浮かんでいる赤黒い煙を周囲に漂わせ、操っているような素振りも含めれば、殆どのプレイヤーはそれだけで戦意を喪失するかもしれない。
「ヴィオ、バル」
「キュイ」
「カアッ」
だからこそシュヴァリエは本気を出すと言う選択を取り、ヴィオレエクレールとバルテンペッタをリング上に登らせ、武器形態にして腰に提げる。
「何時でもどうぞー。何時来ても公平な対応をして見せるのがー、一流のメイドと言うものですからー」
「だろう……ねっ!」
そうしてシュヴァリエは再び突撃した。
11/26誤字訂正




