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「あの……女は……」
「ブーン、お前は人間として一般社会に溶け込んでいる間も、その能力を使って目を付けられない程度に色々と好き勝手していたようだな」
『本当にこれで……これで……』
さて、GMにはカプノスの煙を空間に固定して、映像を投影する以外の仕事をする気は無いようであるし、ブーンを絶望させるための説明は俺がするしかないだろう。
「それが何だって……」
「今、俺の手元にある情報だけでも、賭博に株式、女、友人、ゲーム、飯に旅行、能力を活用して上手く立ち回る事で、恨みらしい恨みを買う事もなく、非合法でない、普通の人間がやりたいと思えるような活動ならばだいたいやっていると言う感じだな。中には非合法の活動も含まれているが……まあ、お前の能力だとバレる方が難しいだろう」
『迷っちゃ……駄目……迷ったら……』
と言うわけで、俺はブーンの言葉を無視して説明をする事にする。
「さて、そうして造り上げたお前の交友関係の中には元『AIOライト』プレイヤーも数人居た。今はもう政府が用意した交代要員との交代によって現実の社会生活に復帰している彼ら彼女らだが、彼らは極々真っ当な思想の持ち主であり、お前の『緋色の狩人』の思想を良くないものだと捉えている」
「だからそれが何だって言っているんだよ!」
『そうよ。だってこうしないと……』
俺は既に『楽園の裏側』を解除し、『レウ・ギィ』と『エファス・フォティア』も時間切れで効果は消失。
残っているのは『リアフ・ネロ』のみ、そのために回復力に優れた俺とブーンのHPバーは全快状態にまで戻っている。
「では、少し考えてみようか。ブーン・フォ・エフィル。お前をとても慕っている人間が、一般的な観点からして絶対に成功しない計画をお前が立てていると知った。そうしたら、その人間はどうする?」
「黙れ!そんな奴は俺にとっちゃあ邪魔なだけなんだよ!そんな奴はとっとと切り捨てた!物理的にもなぁ!!」
「だろうな。お前はそう言う存在だ。だから彼ら彼女らの殆どは逃げた。あるいは見捨てた。でもな、一人だけ居たんだよ。逃げもせず、けれどお前に本心を告げる事も出来ず、見捨てる事もせず、どうすればいいのかも分からずに迷い続ける人間がな」
「ああ?訳が分かんねえよ!そんなのは俺の交友関係に……」
だからブーンは再び俺に襲い掛かって来て、俺はそれを適度にいなし続け、話をする。
『ぶっ君が死んだ方がマシな事になっちゃうもの』
「居たのさ。だから彼女は今、現実世界にあるお前の下に向かっている。お前を消し去れる武器を持ってな」
「っつ!?」
ブーンの身体が硬直する。
まるで背筋にとてつもない悪寒が走ったように。
いや、まるでではなく、実際に走っているのだろう。
『待ってて、ぶっ君……待っててね、ぶっ君……今行くから……』
「何だ……この気配は……」
「彼女は未だに迷っている。自分が今からしようとしている事は本当に正しい事なのかと、お前の為になる事なのかと。だが同時に確信もしている。今の内にお前を殺さなければ、お前はもっと碌でもない結末を迎えることになる。そう言う慈悲の心と当たり前の想像力を持っている」
なにせ、カプノスの煙に映っている女性は背負っているバッグから中身を取り出すと、それを……ギロチンによく似た刃を持つ、使いこまれた様子のある処刑斧を、片手で引き摺りながら、とある病室のドアを開けたのだから。
『誰も居ない?そう、そうなんだ……なら、もう後は私次第なんだね』
「そう言う想いが……まあ、呼び寄せたんだろうな。処刑と言う形式の上でなら使い手がただの人間であっても神を殺せるあの斧を」
「待てよ……ちょっと待てよ!俺は!そんな事を望んでなんて!?」
病室の中には女性の他には、ベッドの上で眠る整ってはいるが特徴らしい特徴のない顔の青年だけが居た。
『すぅ……はぁ……ゴメンね……ぶっ君……許してなんて言わないから……私も後で一緒に逝くから……』
「止めろ!おい止めろって言ってんだ!GM!今すぐに俺を現実に帰せ!!あの斧は!あの斧は!?」
女性が処刑斧……イリバシーレマを両手でゆっくりと持ち上げる。
慌てふためき、GMに対して意味のない抗議をするブーンとは対照的に、女性の顔はとても悲しそうで、迷っていて、けれど目だけは覚悟を決めたそれ……一種の殉教者のようなものだった。
『逝くよ!』
女性が現実のブーンの首に向けて斧を振り下ろし、相応の音が響き、ベッドの生地と鮮血が舞う。
『はぁはぁ……』
「あっ……ぎっ……」
だが、ブーンの首は落ちていない。
どうやら狙いがしっかりと定まっていなかったらしい。
首は4分の1ほど切断されただけだった。
「助か……」
『ゴメンね。痛いよね、ぶっ君。馬鹿でごめんね。役立たずでごめんね。でもちゃんと……ちゃんと首を落とすから』
「ヒッ!?」
だが、それで女性の覚悟は完全に決まったのだろう。
首を抑えて恐怖するブーンの前で女性は再び斧を振り上げる。
「やめっ!?」
斧が振り下ろされる。
『待っててね!ぶっ君!!』
何度も何度も首を狙って振り下ろされる。
「あぎっ!?首が!?」
迷いがなくなった事で逆に切れ味の鈍くなったイリバシーレマが。
『早く楽に!出来る限り苦しまないように!』
何度も何度も無抵抗なブーンの首に振り下ろされていく。
「いだっ!?やめっ……ゆるじ……」
『AIOライト』の中から叫ぶブーンの声が女性に届く事は無く。
『待ってて!太くて!堅いけど!ぶっ君の!骨が!硬いの!でも!大丈夫!絶対に落とすから!』
現実で狂気に染まった叫び声を上げる女性の声は一方的にブーンへと届く形で。
「おねがい……だがら……」
顔も、服も、何もかもを赤く染めて、熱気の籠った吐息で、女性は斧を振り下ろし続ける。
『大丈夫!だいじょうぶ!ダイジョウブ!』
ブーンの首が完全に落ちて、イリバシーレマの力によってブーンが消滅するその時まで。
「ごんな未来なんで……」
『ぶっ君!ぶっ君!ぶっ君!ぶっ君!ぶっ君!ぶっ君!ぶっ君!ぶっ君!ぶっ君!ぶっ君!ぶっ君!ぶっ君!ぶっ君!ぶっ君!ぶっ君!ぶっ君!ぶっ君!ぶっ君!ぶっ君!ぶっ君!ぶっ君!ぶっ君!ぶっ君!ぶっ君!ぶっ君!ぶっ君!ぶっ君!ぶっ君!ぶっ君!ぶっ君!ぶっ君!ぶっ君!ぶっ君!ぶっ君!ぶっ君!』
灯りの消えた病室で女性の献身的な行いは続いた。
「ーーーーー……」
『アハッ、アハハハハハハ!アハハハハハハハハハハハ!!ぶっ君んんんんんんんんんんんんんんんんんんんん!!』
「ふぅ……本当に幸せ者だな。ブーン・フォ・エフィル。お前には、お前の事を殺してでも止めようと思ってくれる人間が居たぞ」
そして、現実のブーンの首が落とされるのと同時に『AIOライト』内のブーンは跡形もなく消滅し、それに続く形で現実のブーンの肉体も白い砂状の物体になって崩れ去った。
11/22誤字訂正




