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「行くよネクタール!」
「ーーーーー!」
下は黒曜石の床と溶岩の池、壁は黒曜石の階段と溶岩の滝、天井は見えない程に高いと言う円筒形の空間でシアたちと『撃魔力溢れる孔雀の王』の戦いは始まった。
「『癒しをもたらせ』『大地の恩寵をその身に』『力を和らげよ』」
シアが素早く三つの魔法を唱えて、自らの強化を行う。
対する『撃魔力溢れる孔雀の王』は……
「ピコック!」
「「!?」」
素早く美しい尾羽を扇状に広げると、そこから光を発して部屋全体を閃光で埋め尽くす。
この攻撃によりシアの装備品に含まれていた特性:ワクチンが効果を発動。
橙色の障壁が砕け散るエフェクトが生じると共に、『撃魔力溢れる孔雀の王』の攻撃による状態異常の付与を防ぐ。
「閃光……『ブート』!」
「ピコッ!?」
特性:ワクチンのおかげで状態異常は発生しなかった。
だからシアは即座に反撃として『ブート』を発動して、『撃魔力溢れる孔雀の王』に魔力球を当ててダメージを与える。
与えたダメージは……『撃魔力溢れる孔雀の王』の最大HPの10%ほど。
ボスだけあってタフではあるものの、それ以上に装備とレベルの差が見える数字でもある。
「状態異常:ブラインは確定としても、他に何が来るかは分からない……」
そして同時に考える。
先程の『撃魔力溢れる孔雀の王』の攻撃に含まれていた状態異常を。
その為にピーコック種についても思い出そうともする。
「マスターは……」
ゾッタにピーコック種と戦った経験はない。
ゾッタに戦った経験が無い以上はシアにも戦った経験はない。
だが、ピーコック種と言う名称自体は掲示板でゾッタが情報収集をしている時に聞いたことがある名前だった。
シアはそこから記憶の繋がりを辿ろうとして……
『ピーコック種か……面倒な状態異常を持っているみたいだな』
「あ、うん、駄目だ。こういう時のマスターは役に立たない」
「ーーー……」
ネクタール共々諦めた。
残念ながら、ゾッタはあまり喋る方でないし、情報を共有する方でもない。
敵が目の前に現れて、その敵について事前に情報を得ていれば話すが……逆に言えば、そうでなければ話す事は無いのである。
「ピイイィィ……」
「でも面倒って事は、たぶん状態異常:チャームとかかな。マスターが面倒って言うのはそう言う状態異常だし」
だがそれでも『撃魔力溢れる孔雀の王』が与えてくるのは状態異常:ブラインだけではない。
そう判断したシアは杖を両手で握りしめると、ゆっくりと警戒した様子を見せながらこちらに近づいてくる『撃魔力溢れる孔雀の王』をしっかりと見据える。
そうして、両者の距離が5メートルほどにまで近づいたところだった。
「ピコオオォォク!」
「『カース』!」
『撃魔力溢れる孔雀の王』がシアに飛びかかろうとし、シアは『撃魔力溢れる孔雀の王』に対して『カース』を発動して状態異常:カースを付与する。
だが、状態異常の付与では『撃魔力溢れる孔雀の王』の勢いが止まる事は無く、『撃魔力溢れる孔雀の王』はシアに向けて鋭い嘴を振り下ろそうとする。
「ーーーーー!」
「ピギャッ!?」
しかし、『撃魔力溢れる孔雀の王』の嘴がシアに届くよりも早くネクタールが槍を突き出して迎撃。
思わぬ反撃を受けた『撃魔力溢れる孔雀の王』は後退を余儀なくされる。
「ピコクウウゥゥ!!」
「っつ!?」
「ーーー!?」
けれどこの程度で攻撃を諦める『撃魔力溢れる孔雀の王』では無かった。
『撃魔力溢れる孔雀の王』は尾羽から閃光を放つと、シアとネクタールに状態異常:ブラインと状態異常:チャームを付与してくる。
そして、シアの動きが止まっている間に追撃を仕掛ける。
「ピイイィィコッ!」
「うっ」
今度こそ『撃魔力溢れる孔雀の王』の嘴がシアの身体に当たり、シアのHPバーを減らす。
状態異常:カースの効果によって微量なダメージが『撃魔力溢れる孔雀の王』にも入り、その動きを鈍らせる。
けれど、その僅かな鈍りを無視して『撃魔力溢れる孔雀の王』はさらに攻撃を加えようとした。
だが、次の瞬間には『撃魔力溢れる孔雀の王』は困惑せざるを得なかった。
「『カースウッドキング・フォースハウル』!」
「ピッ……コッ!?」
『撃魔力溢れる孔雀の王』はシアの周囲から生えた大量の木の根によって全身を打たれ、受け身も取れないような状態で宙を舞っていた。
それは状態異常:カースの効果によって僅かながらでも身体が鈍っている間にシアの攻撃が当たった事によって生じた致命的な隙と言えた。
「『アブソーブ』!」
シアの放った『アブソーブ』によって『撃魔力溢れる孔雀の王』のHPが吸収され、最初の支援魔法によって高まっている回復力もあって、シアのHPバーが全回復する。
「すぅ……『アルケミッククリエイト』、黒曜石よ。彼の者を囲う壁となれ、オブシディアンウォール」
そして素早く詠唱。
「ピコケッ!?」
宙を舞う『撃魔力溢れる孔雀の王』の周囲に黒曜石の壁を造り出して囲い……
「『アルケミッククリエイト』、溶岩よ!灼熱の奔流を以って我が敵を焼き滅ぼせ!ラーヴァハンマー!」
「ッ!?」
その内側に向けて溶岩で出来た鎚を振り下ろす。
「ーーーーー!?」
「よしっ」
「……」
当然ながら『撃魔力溢れる孔雀の王』にはゾッタが戦った『狂戦士の多頭蛇の王』のような圧倒的な回復力などと言うものは無い。
故に黒曜石の壁の向こうから聞こえてくる、『撃魔力溢れる孔雀の王』の断末魔の叫びが聞こえなくなるのにかかる時間は大したものではなかった。
【アンブロシアたちは『撃魔力溢れる孔雀の王』を倒した】
「これで目的の素材は手に入れたね。ネクタール」
「ー、ーーー……」
そうして圧倒的な実力差を見せつける形で、シアたちは勝利を収めたのだった。
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