592:110-9-S29
『かつてこの地より人々は数多の地へと旅立った』
『門を作り、時空を捻じ曲げることによって未知なる世界を見出した』
『彼らは知らなかった。未知なる世界に潜むのは良きものだけでないと言う事を』
『彼らは気付かなかった。神秘を失った世界とは庇護者を持たぬ赤児と変わらないのだと言う事を』
『彼らは理解できなかった。自分たちが招きよせてしまったものの悍ましさを』
『そう、彼らは知る事で触れてしまった、逆鱗と言う名の憤怒に。世界を越えても尽きぬ強欲に。世界と世界が交わる快楽に。神を喰らってもなお飢える暴食に。世界を滅ぼしてもなお有り余る力を持った大罪に』
『そして滅びの後に世界は選んだ。これ以上の悲劇をもたらしてはならない。自らの身に万魔を巣食わせ、己が身を礎としても、今の世に終わりをもたらしたとしても、それでもなお次なる庇護者を生み出さなければならないと。故に天高く伸びる塔の最上に眠らせた。神秘の釜の蓋を再び解き放つその術を。二十二の封印を伴って』
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【AIOライト 110日目 17:58 (5/6・晴れ) BL1・『???』】
「皮肉なものだな。そうして最初にこの地に辿り着いたのが俺とは」
今回のメッセージは今までの物とは少々趣が違った。
考えなく聞く者にとってはこの世界で何が起きたのかを語るだけのメッセージでしかない。
だが、少し考えて聞けば気付くだろう。
今回のメッセージには現実世界の事柄も関わっている事に。
【ゾッタの戦闘レベルが40に上昇した。戦闘ステータスの中から上げたい項目を一つ選んでください】
「悪いが俺は庇護者にはならない。庇護者になる事を選んだ者にほんの少しの助力をするくらいならするがな」
メッセージの終了と共にレベルアップのインフォが流れる。
流石はヒュドラ種のボス個体と言うべきか、得られる経験値は膨大だったようだ。
この分だと……錬金レベルも近い内に上がるかもしれないな。
今回は戦闘中にも錬金術を使っているし。
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ゾッタ レベル40/41
戦闘ステータス
肉体-生命力25・攻撃力10・防御力10・持久力9+4・瞬発力10・体幹力10
精神-魔法力10・撃魔力10・抗魔力7・回復力40+20+10+4・感知力10・精神力11
錬金ステータス
属性-火属性11・水属性10・風属性10・地属性10・光属性7・闇属性10
分類-武器類20・防具類15・装飾品15・助道具20・撃道具15・素材類20
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「戦闘ステータスは……また回復力上げに戻すか?防御力と抗魔力でもいい気はするが……ふーむ」
とりあえず今回のレベルアップで生命力の切りは良くなったので、次からはまた別のステータスを上げることになるだろう。
「ん?」
【ゾッタは『狂戦士の多頭蛇の王』の亡骸を手に入れた】
【ゾッタは黒錠の書-初級を手に入れた】
と、此処で俺は見慣れぬアイテムが二つ、インベントリに入っている事に気づく。
そしてそれに伴ってインフォも流れる。
一つは『狂戦士の多頭蛇の王』の亡骸。
これは……『狂戦士の多頭蛇の王』を倒した報酬だな、詳細もこんなのだし。
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『狂戦士の多頭蛇の王』の亡骸
レア度:4
種別:素材
耐久度:100/100
特性:バーサーク(猛り狂う者に祝福を)
リジェネ(回復力を強化する)
アンチ(特性の効果を反転させる)
『狂戦士の多頭蛇の王』の肉体そのもの。
皮、肉、骨、牙、血……所有者が正しく解体するならば、ヒュドラ種から得られるあらゆる素材が得られるだろう。
亡骸の全てを得られるのは、一人で討ち果たしたが故にである。
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「ふうん……まあ、これの使い道は確定しているな」
なお、切り落とした首もしっかりと回収されているようで、インベントリの詳細画面には切り離したはずの首も表示されている。
なのできちんと解体すれば少なくとも20、多ければ30以上の素材が回収出来るのかもしれないが……繋がりが見えているからな。
使い道は確定でいいだろう。
「で、もう一つは……」
もう一つの見慣れないアイテムは黒錠の書-初級。
こちらは……『黒錠の迷宮-初級』のクリア報酬だな。
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黒錠の書-初級
レア度:4
種別:素材
耐久度:100/100
特性:プレン(特別な効果を持たない)
黒い錠前がかけられた書物。
その中には時空を捻じ曲げ、自らが知る地と地を繋ぐ術法が記されている。
携帯工房の核となっている携帯錬金炉と錬金することで、制限付きながらも転移用ポータルを作成する事が出来る。
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「ふうん……」
折角なのでインベントリから取り出して軽く読んでみるが……うん、俺が知っている事の一部しか書いてないな。
まあ、『AIOライト』内で危険や滞りの類なく転移を行えるようになるための許可証と捉えるのが正解なのだろう。
GMの視線もそんな雰囲気だしな。
ついでに言えば、今の時点で現実世界やゾッタと言うプレイヤーが行った事のない未知の領域への転移はするなよとも言われているな。
うん、つまらないから、そんな事はしない。
【固定ダンジョン『黒錠の迷宮-初級』をクリアしました】
【ダンジョンの入り口に移動するための扉が設置されます。好きなタイミングで退出ください】
「さて、HPが回復したら外に出るか」
そうしてHPバーが十分に回復するのを待った俺は、折角なので自前の魔力を消費して転移を発動。
GMが用意した扉を利用する事なくダンジョンを脱出し、錬金術師ギルド・タイバン支部に戻ったのだった。




